研究課題/領域番号 |
16K09930
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
稲井 邦博 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (30313745)
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研究分担者 |
岩崎 博道 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 教授 (10242588)
法木 左近 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (30228374)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 感染症診断学 / 敗血症 / 病理解剖 / オートプシー・イメージング |
研究実績の概要 |
本研究のprimary endpointは、形態学を基盤とした敗血症の死亡時医学検索(病理解剖、オートプシー・イメージング:Ai)の精度向上に寄与する病理学的・血清学的マーカーを探索して、敗血症の客観診断を可能とするスコアリングシステムを構築することである。具体的には、Aiに引き続き、病理解剖で血液・体液、諸臓器などの人体材料を一元的に採取し、病理学的、細菌学的、免疫学的に解析後、敗血症、非敗血症に層別化してスコアー化に有用なマーカーを決定する。さらに、病理解剖が実施できない施設での敗血症の死亡時医学検索を進めるために、3次元Ai画像を用いて、敗血症との関連性が高いARDSや肺炎のAi診断を補助する肺重量推定法を確立すると共に、Ai-CT、Ai-MRIの診断精度向上を妨げる死後変化の鑑別法を策定する。 そのため、当該年度はスコアリングシステム構築の鍵となる剖検時心臓穿刺による動静脈培養を実施し、重症感染症を呈する10例中8例で病原体が検出できることを確認した。次に既報で造血器悪性腫瘍・敗血症・肺炎などで顕在化する血球貪食組織球過剰症のマクロファージ比率に着目し、M1・M2マクロファージを2重染色で検証する方法を確立した。Preliminaryな検討では、重篤な血球貪食組織球過剰症はでM1/M2比率が縮小することが疑われた。そのためこれも敗血症マーカーとして活用できる可能性が高くなったため、さらに多数例での検討に着手している。さらに敗血症に高率に合併するARDSは通常肺重量が高度に増加することに着目し、死後画像から肺重量を推定する研究に着手した。肺を非常に小さなボクセル単位に分画し、それぞれのボクセルに対する肺重量を計算し積分する方法での検討を医用画像工学の専門家と共同研究中である。なお、当該年度はこれらの研究に関連性の高い複数の論文をpublishした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、スコアリングシステム構築の要となる遺体からの血液培養で敗血症診断が可能か否かを10症例で開胸後に大動脈起始部、及び上大静脈を穿刺して血液培養を実施し、10例中8例(80%)で、動脈血・静脈血のいずれも病原性のある起炎菌を採取する一方、常在菌のコンタミは1例程度に留まる結果を得て、遺体の大血管からの血液培養は高率に起炎菌が得られることを明らかにし、スコアリングの重要なエビデンスになることが分かった。次に、既に報告している敗血症と関連性の強い血球貪食組織球過剰症におけるマクロファージ分画M1とM2の比率(M1/M2)に着目し、M1/M2比率を組織切片上で検出可能とする2重免疫染色方法を確立した。とくに重症感染症や敗血症で血球貪食組織球過剰症を示す骨髄中マクロファージはM2が増加して、その比率が減少する現象を捉えることが出来た。さらに、CT値から比重が換算できる(比重=1+CT値/1000)点に着目し、重症敗血症と関連の深いARDSの画像評価を補助する肺重量推定法の開発に着手した。現在50余例の死後画像を用いて、新学術領域研究多元計算解剖プロジェクトのネットワークを活用して、医用画像工学手法を駆使して肺推定重量抽出研究を実施している。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究は敗血症の死亡時画像診断の客観性を確保するためのスコアリングシステム構築を主目的としている。従って、次年度も病理解剖を基盤として心臓血液培養を継続するとともに、さらに多数例で骨髄M1/M2比率の検索を行う。また、これまでに蓄積した患者血清を用いて炎症性サイトカインを測定し、これらの検査結果との整合性を明らかにしていく。さらに、重症肺炎、ARDSの客観的診断制度確立のため、死後画像からの肺重量推定法を確立し、実測値との相関性を検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に従来の傾向から予測していた剖検数に比し、実際の剖検数が7割程度に留まったことから、高額で使用期限のある炎症性サイトカイン検出キットと免疫染色用の抗体を次年度に繰り越したことに加え、統計解析用ソフトウェアの購入も次年度に遅らしたために繰越金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の上半期までに検体を蓄積するとともに、従来から蓄積してきた保存検体も活用して解析を進めることで研究の促進を図る。また、既に得られたデータを活用して学会発表や論文執筆を行うことで、成果発表に要する経費も積極的に活用していく(現在、英文論文投稿準備に目処が立ち近日中に投稿予定)。
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