研究実績の概要 |
我々はSFTS重症患者の末梢血にT細胞リンパ球由来の異型細胞ではなく,B細胞系リンパ球が増加する現象を経験し,この現象がSFTSウイルスの免疫原性によって惹起される特徴であるか否かを検討した。現時点で、重症で入院が必要な3名のSFTS患者リンパ球の機能解析を行った。異型リンパ球はDowneyの分類によると、①単球様、②形質細胞様、③リンパ芽球様の3つに分かれる。1例目は末梢血に12.5%の異形リンパ球の出現を認め、形態上は形質細胞様であり、表現型はCD3 8%, CD4 4%, CD8 13%, CD19% 86%, CD20 7.1%, CD38 95%, CD25 2%, TCRα/β 17%, TCRγ/δ 4%, Smlg-κ 2.3%, Smlg-λ 2.7%であった。2例目は末梢血に2.0%の異形リンパ球の出現を認め、形態上は形質細胞様であり、表現型はCD4 0.6%, CD8 10%, CD19% 91%, CD20 48%, CD38 99%, CD25 6.3%, TCRα/β 1.0%, TCRγ/δ 0.1%, Smlg-κ 0%, Smlg-λ 97%であった。3例目は形態上は形質細胞様であり、表現型はCD3 4%, CD4 1.6%, CD8 27%, CD19% 80%, CD20 48%, CD38 98%, CD25 1.6%, CD56 0.7%, CD16 1.4%, Smlg-κ 1.7%, Smlg-λ 1.9%であった。我々が分析を行った重症SFTS患者3名の末梢血異型リンパ球は、いずれもB細胞系リンパ球の表現型を有し、形質細胞様の形態で,単一に増加していた。一般のウイルス感染症(EBVやCMVなど)による末梢血異型リンパ球がT細胞由来であることと大きく異なっており、臨床的に意義のある解析であった。
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今後の研究の推進方策 |
我々は本研究にあたり、以下の3つの実験系を柱として計画を遂行中である。すなわち、①急性期SFTS患者末梢血リンパ球におけるリンパ球表面形質の解析とサイトカイン産生プロファイル、②SFTSウイルス感染細胞の同定、③SFTSウイルス特異的T細胞クローンの樹立、である。現在、①を中心に取り組んでいるが、患者末梢血から一定の異型リンパ球の採取に成功し、セルソーターを用いた②の実験系を遂行予定である。また、①におけるSFTSでの異型リンパ球の表現型がB細胞系リンパ球であるという現象が、SFTSに特異的であり他のウイルス感染で本当に見られないか否かを確認するため、当院受診患者で末梢血に異型リンパ球が見られた既存のウイルス感染症(EBウイルスとサイトメガロウイルス)でその表現型を確認中である。①におけるサイトカイン産生プロファイルにおいては、患者末梢血からficoll-Conray法で分離した単核球を抗CD3抗体および抗CD28抗体で刺激し、その培養上清に産生される各種サイトカイン濃度を定量的に測定し、Th1,Th2,Th12,Tregといったリンパ球の活性化を検討する予定である。実験系の都合上、一定の患者単核球のサンプル数の収集が必要なため、現時点に当科で保存している単核球が更に蓄積された時点で、上記実験を施行予定である。③においては、SFTS患者血清をVero細胞に摂取しCPEを確認後、培養上清を回収。更に紫外線照射し、ウイルスを不活化する。この方法によりSFTSのウイルス抗原を安全かつ効率的に作製し、SFTS特異的T細胞の樹立を目指している。これらは、我々がこれまで幾度となく施行してきた技術であり、多くの成功を経験しており実現可能である。以上の如く、研究の進捗状況は良好であり、研究の推進方法は当初予定していたものを予定どおり踏襲していく。
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