研究課題/領域番号 |
16K09937
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
宮川 寿一 熊本大学, 医学部附属病院, 助教 (40347000)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ADAMTS13 / vWF / 動脈硬化 / HIV |
研究実績の概要 |
ヒト免疫不全ウイルス(Human immunodeficiency virus;HIV)感染患者では非感染者と比較し心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)の発症の頻度は高く、若年で心筋梗塞が認められる。今年度は頸部血管超音波検査を用いた動脈硬化病変の検索を継続し、現在まで50名評価を行った結果、50歳以上の患者の半数で動脈硬化病変を認め、また、40代の3人に1人、30代の患者の1名で動脈硬化性病変が認められ、若年HIV感染患者での動脈硬化の危険性に高さが示唆された。再度動脈硬化と相関する因子を検討した結果、以前報告したように喫煙、糖代謝異常およびvWF抗原高値が危険因子として同定された。また、評価を行ったすべての症例より同意を得て、血漿およびDNA抽出用の末梢血単核球を採取することができた。さらには、未治療患者において、同様にクエン酸血漿および末梢血単核球を採取した。得られた血漿を用いて、27名の患者(未治療患者10名を含む)でADAMTS抗原活性を検討したところ、ADAMTS13抗原活性に関して抗レトロウイルス治療(ART)施行患者と未治療者では有意差を認めなかったが、ADAMTS13抗原活性/ADAMTS13阻害因子活性を検討したところ、動脈硬化を有さない患者は動脈硬化を有する症例および未治療患者と比較し高値である傾向にあった。また、現在まで33名の患者(未治療患者7名を含む)でvon Willebrand因子(vWF)マルチマー解析を施行しており、今後、さらに検討症例数を増やし、未治療症例やART施行下の症例での検討や、動脈硬化の有無によるマルチマーパターンの相違に関して詳細に解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画として、①HIV感染患者血漿の採取、②HIV感染患者のDNA採取、③ADAMTS13抗原量および活性の測定、④抗ADAMTS13自己抗体測定および⑤vWF抗原量およびvWFマルチマー解析の5項目を挙げており、HIV感染患者の血漿採取とDNA採取に関しては順調に採取することができた。また、頸部血管超音波検査に関して、検討症例数を50症例まで増やすことができたため、研究結果の精度・信頼性の向上に寄与するものと考えられ、動脈硬化の危険因子を再検討した結果、喫煙、糖代謝異常およびvWF抗原高値が再度同定された。また、ADAMTS13抗原活性に関し、現在まで27名での測定を終了しており、ADAMTS13抗原活性およびADAMTS13阻害因子活性とHIV感染自身の影響や動脈硬化との関係性に関してある程度の検討を行うことができている。今後、検討症例数の増加や、同一症例における経時的な抗原量の変化等を検討予定である。更には、ADAMTS13の基質であるVWFのマルチマー解析を本年度は33名(未治療者7名を含む)で行い、現在、詳細については解析中であるが、ラージマルチマ―分画の増加と動脈硬化やHIV RNA量との関連について明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後はADAMTS13抗原量、ADAMTS13阻害因子活性およびvWFマルチマー解析の症例数を増やすとともに、HIV RNAの数コピー同定法を測定法を確立し、低レベルのHIV-1 RNAが検出される症例と全く検出されない症例での、ADAMTS13抗原量・活性、抗ADAMTS13抗体およびvWFマルチマー量の比較を行い、持続的な低レベルのウイルスによる影響に関して検討する。また、HIVの残存プロウイルス量は治療期間に相関し、一方でCD4陽性リンパ球数の最低値との相関が報告されている。CD4陽性リンパ球数最低値および残存プロウイルス量とADAMTS13抗原量・活性、vWF抗原量およびvWFマルチマーの連関を検討し、現在、推奨されている早期のART開始のCVDへの効果について検討する。最近、HIV感染静止期CD4細胞表面上の免疫グロブリンGのFC断片に対する低親和性の受容体であるCD32aがHIVリザーバ特異的な膜蛋白として報告されており、CD32a発現静止期CD4細胞の同定法を確立し、ADAMTS13やvWFとの関連性についても検討する予定。また、血管内皮の機能を推定するバイオマーカーとして高感度CRP、Lp-PLA2、PTX3や新規バイオマーカーとしてmicroRNA(miR)報告されており検討を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はADAMTS13抗原活性およびvWFマルチマー解析の条件設定に多くの時間を要したため、当初の予定より物品費が低額となった。また、患者サンプルからの血漿分離や末梢血単核球分離・保存を行うために研究助手の雇用が必要であり、人件費が当初の予定より高額となった。今後は、ADAMTS13抗原やvWFマルチマー解析数を増加させ、論文化や学会での発表を予定しているが、本年度は症例検討数を増加している状況であり、最終結論は得られていないため、論文や学会発表で発表するには至らず、旅費も計上額より低額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はADAMTS13抗原およびADAMTS13阻害因子の測定やvWFマルチマー解析数を増加予定であり、また、本年度で採取した患者DNAを用いてHIVプロウイルス量の検討や、超遠心法などを用いて血漿中のHIV RNAの数コピー同定法の確立を予定しており、本年度より高額の実験費が必要となる。また、血管内皮の機能を推定するバイオマーカーとして高感度CRP、Lp-PLA2、PTX3や、最近報告された新規バイオマーカーであるmicroRNA(miR)の検討を開始予定としており、さらにはHIV感染患者におけるトロンボポエチン、プロテインSおよびANGPTL2が脳心血管障害へ与える影響に関し既に検討を始めている。そのため、抗体やアッセイキットなどの購入のための物品費が必要となる。
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