ヒト免疫不全ウイルス(Human immunodeficiency virus;HIV)感染患者では非感染者と比較し心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)の発症の頻度が高く、若年で心筋梗塞が認められる。頸部血管超音波検査を用いた動脈硬化病変の検索をHIV感染患者50名の評価を行い、50歳以上の患者の半数で動脈硬化病変を 認め、また、40代の3人に1人、30代の患者の1名で動脈硬化性病変が認められ、若年HIV感染患者での動脈硬化の頻度の高さが示唆された。動脈硬化と相関する因子を検討した結果、以前報告したように喫煙、糖代謝異常およびvon Willebrand因子(vWF)抗原高値が危険因子として同定された。評価を行ったすべての症例より同意を得て、血漿およびDNA抽出用の末梢血単核球を経時的に採取を行い、未治療患者において同様にクエン酸血漿および末梢血単核球を採取した。27名の患者(未治療患者10名を含む)でADAMTS抗原活性を検討したところ、ADAMTS13抗原活 性に関して抗レトロウイルス治療(ART)施行患者と未治療者では有意差を認めなかったが、ADAMTS13抗原活性/ADAMTS13阻害因子活性を検討したところ、動脈硬化を有さない患者は動脈硬化を有する症例および未治療患者と比較し高値である傾向にあった。頚部血管超音波検査を施行した35名の患者におけるvWFマルチマー解析で、動脈硬化を有する患者において、6~10量体以上のマルチマーの割合が統計学的有意差をもって増加していることが明らかになった。また、ART施行前のCD4数の最低値が200/μL未満の患者において統計学的有意差をもってvWF抗原値が経過中に高値となった。また、HIVプロウイルス量測定法を開発し、vWF抗原やvWFマルチマーとの関連や動脈硬化との関連に関して検討を継続しており、今後、さらに症例数を増やし結果を検討することで、早期抗HIV療法(ART)開始の有用性に関しても検討を開始する予定である。
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