研究課題/領域番号 |
16K09947
|
研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
竹村 弘 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (80301597)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | カルバペネム薬 / L-システイン / L-シスチン / A549 / 失活 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、平成25-27年度に科研費を受けた研究(基盤研究C[課題番号25461525]「ヒト培養細胞のカルバペネム系抗菌薬失活効果の解析」)で、ヒト由来の各種培養細胞の培養上清がカルバペネム薬の抗菌活性を著しく低下させる(失活する)こと、この現象は細胞の培養上清中の細胞由来のL-cysteine(Cys)によって起こることを明らかにした。さらにA549細胞を、Cysを含まない無血清RPMIで培養する実験モデルを用いて培養上清中のCysの挙動を検討し、Cysは培養開始後経時的に増加し、アミノ酸を含まない培養液ではCysは増加しないことなどを明らかにした。またカルバペネム薬を失活する効果は、Cysの濃度依存的で、試薬から調整したCys溶液も培養上清と同程度にIPMを失活することが判った。 これらの研究成果を踏まえ、平成28年度から始まる本研究では、まず細胞がどのような過程でCysを新生し細胞培養上清中に放出するかを明らかにすることを試みた。アミノ酸を含まない培地で培養しても、培養液中にCys が産生されないことに着目し、Cysの生合成に関わるアミノ酸であるメチオニン、セリン、Cysの酸化体であるCystine(LC)の有無でCysの産生を調べたところ、①培地中のメチオニンやセリンはCysの産生には影響しないこと、②LCの濃度依存的に培養上清がIPM失活活性を示すこと、③LCの濃度に依存して上清中のCysの濃度は経時的に増加すること、が明らかになった。またLC非添加培養液中で培養した細胞上清を回収し、その培養液にLCを後から添加しても、これらの現象は観られず、Cysの新生には細胞の存在が必須であることが判った。また細菌由来のカルバペネム分解酵素であるカルバペネマーゼ検出法の一つであるCIM testを応用し、カルバペネム薬や他系統の抗菌薬に対するCysの効果の評価を試みた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、様々なヒト由来の培養細胞をある条件で培養すると細胞培養液中の抗菌薬(カルバペネム薬)が失活する現象のメカニズムの解明とより有効な抗菌薬療法の確立を、主な目的としてきた。上記のように、この現象の原因物質の探索という点では、今年度は大きな成果を得ることができたといえる。このため達成度としては、(2) のカテゴリーとした。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年までの研究で、特定の条件で培養した細胞培養液の上清中ではカルバペネム薬が失活すること及び、この現象の大まかな挙動が明確になり、そのメカニズムとして培養細胞がLCを還元してCysを生成することが想定された。今後は、Cysによるカルバペネム薬の失活活性の詳細を分析するとともに、細胞種や抗菌薬を変えて、その実態を検討し、さらにCysによるカルバペネム薬が失活活性に影響を与える因子、(条件や物質)の解明をめざしたいと考えている。このために細菌由来のカルバペネム分解酵素であるカルバペネマーゼの様々な検出法(CIM test、カルバNP法など)を応用し、抗菌薬に対するCysの効果を評価できないか検討しようと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年の研究で、特定の条件で培養したヒト細胞培養液の上清中ではカルバペネム薬が失活する現象の大まかな挙動が明確になり、そのメカニズムとして細胞由来のCysによりカルバペネム薬が失活すること、Cysは細胞によるLCの還元によって産生されることが判った。当初、この失活メカニズムの解明及び原因物質の特定は難航し、外注検査を含めて研究費用がかさむと考えられていたが、考えていたよりも順調に特定できた。また一連の研究として研究を遂行しているため、活性の挙動を解析する実験系も既存の方法で、比較的安価で行えたため、今年度の研究費が当初の予定よりも少なくて済んだ。
|
次年度使用額の使用計画 |
ヒト培養細胞由来のCysによってカルバペネム薬が失活することを踏まえて、より多くの細胞、抗菌薬で同様の現象がみられないかを検討し、さらにカルバペネマーゼの検出系の応用を検討する計画があり、細胞や試薬、キットなどの購入費用。また、Cysによるカルバペネム薬失活効果を、HPLCなどを用いてより詳細に解析する計画がある。このため新たに細胞、抗菌薬、HPLCカラムなどの高額の試薬や器材を購入する予定である。またHPLC装置のメインテナンスに関する出費も予想される。さらに研究成果を、国際的な学会及び誌上で発表したいと考えており、その準備や遂行に費用が必要と思われる。
|