研究代表者は培養上清中のヒト細胞由来のL-cysteine(Cys)はカルバペネム薬であるIPMの抗菌活性を濃度依存的に失活する現象を発見した。昨年までの研究で、L-cystine(LC)不含の培養液ではCysは検出されないことから、Cysは培地成分のLCを細胞が還元することで新生され、このCysがカルバペネム薬を濃度・反応時間依存的に加水分解することなどを明らかにした。その他にCysのIPM失活活性は血清中のタンパク質とCysが結合することにより阻害されることなどが判った。 2019年度の研究ではCysの抗菌薬失活活性を定量化する方法について詳細な検討を行った。MICの1、2、5倍濃度(1×MIC、2×MIC、5×MIC)のカルバペネム薬を含み、Cysを400μMから段階的に希釈添加したプレート上で大腸菌を培養し、どの濃度から菌の発育が見られるかを比較検討した。すなわち1/2×MIC以下になると菌の発育が認められることから、カルバペネム薬の活性が1/2以下、1/4以下、1/10以下になるCysの濃度(C1/2、C1/4、C1/10 単位 μM)をそれぞれ求めた。各実験を5回ずつ行いその中央値で表すと、IPMをRPMI培地で検討した場合、18時間培養でC1/2=25、C1/4=50、C1/10=50、24時間培養でC1/2=6.25、C1/4=25、C1/10=50であった。さらにLC不含RPMI培地で検討した場合、18時間培養でC1/2=25、C1/4=25、C1/10=50、24時間培養でC1/2=12.5、C1/4=25、C1/10=50であった。LCを含む培地でCysが新生され評価系に影響を与えることは否定され、C1/2は培養時間によって値が安定しないことが判った。さらにCysは他のカルバペネム薬(MEPM、BIPM、DRPM)に対しても同様の失活効果を示した。
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