研究実績の概要 |
最終年度、acyclovir(ACV)が効きにくい疾患に対してtricinがどの程度有効かを確かめるために、ACVの治療成績が不良である急性網膜壊死(ARN)に着目し、その培養細胞評価系の確立を試みた。2種類のヒト網膜由来細胞株、ARPE-19(網膜色素上皮細胞)とMIO-M1(網膜ミュラー細胞)に水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)を感染させ、炎症応答を解析した。その結果、①MIO-M1にVZVを感染させるとケモカインの一種であるIL-8が産生上昇すること、②VZVを感染させたMIO-M1の培養上清に対しての実際に末梢血由来顆粒球の遊走が促進すること、さらに③VZV感染MIO-M1細胞では複数のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP-1, -3, -9, -13等)が産生上昇することが明らかとなった。以上の結果から、ARNの炎症性病態進行における網膜ミュラー細胞の関与と、培養細胞評価系としてMIO-M1の有用性が示唆された。そこで次に、VZV感染MIO-M1細胞に対してACVとtricinを各々10 uMとなるように投与し、ウイルスDNA複製と、IL-8ならびにMMPsの遺伝子発現を定量して、両者の抗ウイルス効果と抗炎症効果を比較した。その結果、感染5日後ではウイルスDNA量と炎症性遺伝子発現量ともに、ACV処理とtricin処理とで差はなかったが、④感染7日後になるとACV処理ではウイルスDNA量と炎症性遺伝子発現量が上昇したのに対し、tricin処理ではいずれの測定項目も横ばいを示した。以上の結果から、ARNを想定した培養細胞評価系では、ACVよりもtricinの方が抗ウイルス効果・抗炎症効果ともに優れている可能性が示唆された。今後は両者を併用することによる相乗効果や、ACV以外の抗ウイルス薬の評価を行っていく予定である。
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