アトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症、関節リウマチおよびクローン病等の慢性炎症性疾患において、血清ビオチン値の低下やビオチン投与による症状の改善が報告されているが、ビオチン代謝がこれらの疾患発症にどのように関わるのか、その機構は殆ど明らかにされていない。当研究室の先行研究により、血清ビオチン値とスギ花粉症の発症との間に有意な相関が見られていることから、本研究ではスギ花粉症のモデルマウスやヒト鼻粘膜培養細胞の炎症モデルを用いて、ビオチンが炎症性サイトカイン、ケモカイン、MMPの発現、分泌にどのように関与するのかそのメカニズムを解析した。昨年度までに、4週齢より約2ヶ月間通常あるいはビオチン除去飼料により飼育したマウスに対して、アジュバントを用いずに花粉症を誘導するマウスモデル系を確立し、ビオチンの有無がその症状や分子病態に与える影響を解析した。その結果、精製スギ花粉抗原 Cry j1の局所感作による鼻かきの症状はビオチン(+)と比較してビオチン(-)の方が高い傾向が見られたが、ビオチン(-)についてはPBSでも一部の個体で表現型が見られた。このことから、SPFでない飼育環境では、ビオチンの除去そのものがアレルギー性疾患の発症に関与する可能性が考えられた。今年度はさらに培養細胞を用いて炎症反応誘導におけるビオチンの役割を解析した。通常の培地、あるいはアビジンビーズを用いてビオチンを除去した培地を用いて、ヒト初代小気道上皮細胞を24時間培養した後、IFN-betaまたはpolyI:Cで24時間刺激し、炎症関連分子の発現をqRT-PCR法で検討した。その結果、preliminaryな結果ではあるが、ビオチン除去培地では、IL-8、RNATES、MMP-13の発現誘導の亢進が見られ、培養細胞においてもビオチン除去による炎症反応の増強が示唆された。
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