研究課題/領域番号 |
16K09978
|
研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
越川 信子 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 主席研究員 (90260249)
|
研究分担者 |
渡部 隆義 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 研究員 (60526060)
永瀬 浩喜 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 研究所長 (90322073)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ミトコンドリア / DNA / PIポリアミド |
研究実績の概要 |
PI polyamide (PIP)は、ある種の細菌の産生する天然抗生物質から発想された小分子化合物で、核内DNAの副溝に特別な送達システムを必要とせず結合する。また、ピロール・イミダゾールからなる基本骨格の構成によって種々の塩基配列を標的とすることができる。実際当研究グループではPIPにアルキル化剤を結合させ、変異KRAS遺伝子の発現を抑制し、動物実験において、腫瘍の増殖を抑制することに成功している。このことから、細胞内のDNAを標的とする意味でミトコンドリアDNA (mtDNA) への応用が可能ではないかと考えた。mtDNA異常は、ある種のミトコンドリア病、糖尿病、癌転移に関連することが報告されている。当該研究では、ミトコンドリア病の一種であるMELASの原因mtDNA変異として知られているmtDNA3243 A>Gを標的としてPIPを合成し、その変異mtDNAの発現の抑制を目的とした。合成したPIP (PIP2) にFITCを結合した化合物PIP2-FITCを作製し、HeLa mt3243A>G変異mtDNA82%含有cybridに投与後、24時間はミトコンドリアに滞留することを観察したが、48時間後には排出された。そこで新鮮PIP2をHeLa mt3243A>G 変異mtDNA55%含有cybridに2日毎に40日以上連続処理した。しかし変異mtDNAの発現量に変化が認められなかった。そこで膜電位差から、ミトコンドリアの内膜へ物質を導入するtryphenylphosphonium (TPP) カチオンをPIP2と結合し、このPIP2-TTPを、mt3243A>G55%含有cybridに濃度を変えて40-60日間、隔日に新鮮なPIP2-TPPを連続投与した結果、濃度依存的に変異mtDNAの発現量が減少し、正常mtDNA量が増加する傾向が認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ミトコンドリアは2重膜構造を形成しており、mtDNAは内膜内に存在する。このため、mtDNAに対するPIP2-TPPの影響が認められるまでに40日以上を費やすることから、次の手段を手がけるまでに時間がかかりすぎる事が問題である。しかし、他のmtDNAに対する処理を行う研究でも、長時間がかかる事が挙げられているため、この時間を短縮する方法を考える必要がある。さらに、短期間の処理により効果を上げるため、PIPとmtDNAとの結合頻度を上げるための改良、ミトコンドリア内でのPIP濃度の向上を図る。また、PIPの合成に使用する試薬が高価であり、湿度に左右されることから、合成に時間がかかることも問題の一つに挙げられる。そこで、合成効率を上げるため、合成機の更新、機器のある研究室の湿度・温度の管理の厳密化を図るなどの改善を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
PIP2-TPPは有効な手段と考えられるが、現在のPIP2-TPPは結合リンカーが短い。このためmtDNAとの結合頻度が低いと考えられるので、リンカーの長さを伸張し、ミトコンドリア内膜付近に存在するmtDNAに結合する頻度を高めるため、PIP2-TPP longを合成するべく鋭意努力を行っている。さらに、ミトコンドリア内のPIP2の滞留濃度を高めるため、北海道大学 山田勇磨准教授との共同研究により、MITO porterにPIPを封じ、より高濃度のPIP2のミトコンドリア内への導入を模索している。 また、PIP2以外のmt3243A>Gを標的とした新たな骨格のPI polyamideの合成を行い、PIP自体の構造の改善を行うことにより、より標的変異mtDNAとの結合能を上げることを検討している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
細胞培養において、多種類の細胞を同時培養するのではなく、1種の細胞を用いて集中的に研究を行ったため、培養に関する試薬,器具類の消耗が少なかった。また、1種類のPIPに修飾を行う操作を行っていたため、高額試薬の購入に踏み切らなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
多種類の細胞を用いて培養を行うため、FBSを購入する必要が生じてきた。このため、今年度は培養試薬の購入に高額を使用する予定である。また、新たなPIPの骨格合成、修飾を行う事から、試薬購入にも費用を用いる予定である。また、新規合成(長いリンカーを使用したPIP2-TPPの合成、新規のPI polyamideの合成、およびFITCの結合等)を行うため経費を使用する。 さらに、呼吸鎖複合体の活性変化や、細胞毒性、ミトコンドリア内へのPIPの導入の有無を観察するための試薬の購入に経費を充てる予定である。
|