本研究は、モワットウィルソン症候群のモデルマウスであるC57BL/6遺伝背景のZeb2ヘテロ変異マウスなどを用いた解析を行うことにより本症候群の病態発症の分子メカニズムの一端を明らかにし、加えて本モデルマウスを使用して本症候群の症状緩和法の開発の糸口を掴むことを目的にする。 本年度に得られた研究実績は以下の通りである。 前年度に行った研究においてモデルマウス由来の初代神経細胞を用いた電気生理学実験でモデルマウス由来のニューロンでmEPSCのamplitudeの低下を見出だしていた。本年度は同じくモデルマウス由来の初代神経細胞からRNAを回収し、マイクロアレー解析(それぞれN=3)を行った。その結果、モデルマウス由来の初代神経細胞で発現が上昇していた遺伝子が225遺伝子(コントロールに比べ発現1.3倍以上)、低下していた遺伝子が44遺伝子(コントロールに比べ発現0.7倍以下)を見出した。 本症候群の症状緩和法の開発に向けて、候補薬剤のCrucuminを母体を通して胎生期のモデルマウスに投与し、成獣化後にコントロールとしてDMSOを投与したモデルマウスと共にその自発行動量の測定を行った。実験はトータル1時間の系、5分ごとの移動距離を計測するもので、その結果、試験開始直後の急速な自発行動量の低下が薬剤により緩和されている結果を得た。知的障害の症状緩和法の開発は困難な課題であるが、今回、胎児期からの薬剤投与実験で、一部ではあるが症状緩和が見られた結果の意義は大きい。今後、よりさまざまな関連薬剤の使用や投与時期の検討により、本証拠群の更なる症状緩和の可能性を検討し、将来的な臨床サイドへのフィードバックを目指す。
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