研究課題/領域番号 |
16K09986
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
稲葉 雄二 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (30334890)
|
研究分担者 |
本林 光雄 信州大学, 医学部, 特任助教 (90747940)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 先天性サイトメガロウイルス感染症 / 大脳白質病変 / 大脳皮質形成異常 / 自閉スペクトラム症 / 聴覚障害 / 抗ウイルス薬 |
研究実績の概要 |
本研究は先天性サイトメガロウイルス(以下CMV)感染症における大脳白質病変に着目した病態解析と神経学的特徴の関連の解明を目的としている。初年度の28年度は、既診断患者と新規診断患者を登録し、大脳白質病変の定量化と臨床的特徴、すなわち周産期情報、聴覚、知能、発達指数、発達障害の有無などともにデータベース化し、同時に臨床検体を保存した。 実績としては、大脳白質病変の容積と知能が逆相関するという報告を既に行ったが、加えて、自閉スペクトラム症の合併が多い点と、その合併の有無と画像所見との関連について国際学会で報告すべく、抄録を提出し受理された。また、保存検体における解析としてサイトカインや神経障害マーカーの解析を順次進め、プレリミナリーなデータでは十分な相関が得られていない。さらに、リンパ球の中でもメモリー細胞の機能を評価するために、抗原刺激を加えてインターフェロン産生を測定する方法を導入して解析を進めたところ、良好に反応する症例とそうでない症例が存在し、症例数を増やして報告する準備を進めている。 CMVに対する抗ウイルス薬による治療介入研究に関しては、信州大学医学部医倫理委員会承認を得て、同意の上で治療介入した症例について、神経学的所見、聴力、発達状況、CMVウイルスゲノム量などについて解析した。治療とともにウイルス量の減少が認められたが治療後上昇した。この点については、症例数を増やして臨床的特徴とともに解析して報告する準備をしている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
登録患者について、周産期情報、聴覚、知能、発育・発達指数、発達障害の合併の有無、大脳白質病変や皮質形成について、データベース化した。現在25名が登録されている。 このデータをもとに大脳白質病変との容積と自閉スペクトラム症の合併の有無には相関はなく、皮質形成や白質病変の部位に関連している可能性があると考え、さらに解析を進めている。特に側頭葉内側部の皮質形成と自閉スペクトラム症との関連に着目し、国際学会で報告する。 生化学的解析として、種々の炎症性サイトカインやニュートフィラメントH鎖、神経特異エノレース、マトリックスメタロプロテアーゼ‐9などの神経障害マーカーを測定して臨床的特徴との関連を検討しているが、現時点で有意な関連は見いだしていない。さらに、患者血液から単核球を分離して培養液中にCMVの抗原刺激を加えてインターフェロン産生を測定することによって、CMVに対する特異的メモリー機能の有無について検討を始めた。まだ数例での実施であるが、良好に反応する症例とそうでない症例が存在していたためさらに検討を進める予定である。 抗ウイルス薬による治療介入を保護者の同意のもとで複数例に対して実施した。神経学的所見、聴力、発達状況、ウイルス量などについて解析したところ、治療による変化が見られ、今後症例数を増やして臨床的特徴とともに解析して報告する準備をしている。 以上より、登録患者数が計画の予定よりもやや少ないが、それ以外の研究遂行状況は計画通りであるため、おおむね順調な進捗と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
新規患者登録と臨床検体の保存を引き続き行い、上記に記載した研究内容をさらに症例数を増やして解析し、報告する。特に、画像解析と自閉スペクトラム症との関連は有意な所見と考えられ、詳細な解析の上で欧文誌に投稿する予定である。また、リンパ球におけるメモリー細胞の機能については新たな研究手法となり、胎生期のウイルス暴露によるメモリー機能の有無と、症状の発現との関連などその意義が注目されるため、刺激条件を変えながら評価をすすめていく。さらにCMVに対する、アビディティ抗体の測定を今後は進めて、臨床的特徴との関連を検討する。また、宿主のCMVの受容体となりうる遺伝子の多型について解析準備を進めており、29年度中に実施する予定であり、これらと臨床的特徴や大脳の画像所見、ウイルス定量結果との関連についても検討する。以上、29年度中にはおおむね解析を終わらせ、最終年度にはこれらの成果をまとめ、総合的な視点で予防策を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新規に診断された症例が28年度は少なかったため、当初予定した予算より減額しての使用となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
今後も新規診断症例数に応じて予算執行は変化しうるが、リンパ球メモリー細胞の解析や遺伝子多型の解析などの新たな解析指標の開発のために、平成29年度請求額と合わせて主に物品費に使用する計画である。
|