本研究の目的は、ステロイドホルモン生合成におけるStAR非依存性経路の正常生理と病態生理を解明することである。 1) Star欠損Y1細胞株を用いたコレステロールエステル(CE)蓄積過程の再現と変異型STAR機能解析:野生型Y1細胞株、Star欠損Y1細胞株をcAMP投与下で培養し、Star欠損Y1細胞株の細胞質内にのみCEが蓄積し、先天性リポイド副腎過形成症(LCAH)の病態をin vitroで再現できることを確認した。Star欠損Y1細胞株に変異型STAR蛋白(p.Gln258*、p.Arg272Cys、p.Ser195Ala)を導入し、野生型STAR導入時に比し3β-水酸化ステロイド脱水素酵素阻害下におけるプレグネノロン産生能が有意に低下することを確認した。これらから、Star欠損Y1細胞株がin vitroにおけるLCAHの病態生理のモデルとなること、変異型STAR蛋白の機能解析系として応用できることが示された。 2) タモキシフェン誘導型の時期特異的Star欠損マウスの表現型の解析:週齢8のCAG-Cre/Ert1陽性Star floxedマウスにタモキシフェンを投与して全身性Star欠損マウスを作成し、副腎皮質のCE蓄積、副腎皮質のzonation障害、コルチコステロン産生障害が段階的に生ずることを確認した。同マウスの副腎のRNAシーケンス解析により、Nr5a1を含むステロイド生合成に関する遺伝子群の発現が有意に低下していることを確認した。これらから、LCAHの病態生理で提唱されているCE蓄積による二次的なStAR非依存性のステロイドホルモン生合成経路の障害が副腎皮質で初めて可視化され、少なくとも一部はステロイド生合成に関する遺伝子群の全般的な発現低下と関連することが示唆された。 以上、StAR非依存性のコレステロール転送経路を解明するための解析系の樹立に成功した。
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