ミトコンドリア病が疑われながら未診断であった患者の病因特定、病態解析を目指し、全国から寄せられた患者検体を用い、ミトコンドリア病の主たる原因となる呼吸鎖酵素異常の評価を行った。皮膚線維芽細胞、筋芽細胞、生検筋から抽出したミトコンドリアを用い、巨大分子である呼吸鎖酵素複合体を評価できるBlue-Native電気泳動(BN-PAGE)や呼吸鎖酵素活性測定等の生化学的検査と遺伝子解析を行い、多数の患者の診断に至ることができた。 2018年度には、複合体Iの集合に関わる因子NDUFAF3の異常を有する本邦初の患者等を見出し、BN-PAGEや二次元電気泳動法等により集合異常を証明して報告した。また、先天性の筋疾患と考えられ病因が特定できていなかった2症例について、骨格筋の病理所見、BN-PAGE、呼吸鎖酵素活性測定にて複合体Ⅳ欠損を証明し、網羅的遺伝子解析によって新規病因遺伝子COX6A2の変異を見出し、2019年度に報告した。COX6A2は、呼吸鎖複合体Ⅳの構成タンパクCOX6Aの横紋筋のみに発現するisoformであるため、生検筋を用いた解析を行わなければ異常を検出できず、ミトコンドリア病診断におけるピットフォールを克服した例であった。BN-PAGEにより、呼吸鎖複合体Ⅳの量的低下、集合の異常も示され、病態の解析に役立てることができた。また、従来解析が行われてこなかった呼吸鎖複合体Ⅴの評価も行った。ミトコンドリアDNA変異が検出された複数の患者で、複合体Ⅴの集合異常が検出され、BN-PAGEの有用性が示された。診断における位置づけを整理し、現在論文投稿準備中である。 本研究により、ミトコンドリア機能の中核を担う呼吸鎖複合体の量や集合過程の評価の、診断や病態解析における有用性が示された。今後、さらなる未診断例の病因確定や、患者診断システムの改善に寄与するものと思われる。
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