研究課題/領域番号 |
16K10004
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
井上 由紀子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第六部, 科研費研究員 (30611777)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オキシトシン受容体 / 自閉スペクトラム症 / CRISPR/Cas9 / ゲノム編集 / BAC |
研究実績の概要 |
神経伝達物質としてのオキシトシンは、脳内に広く分布するオキシトシン受容体を介して社会性行動に関わることが知られ、近年、自閉スペクトラム症を対象としたオキシトシン点鼻薬の臨床試験において、対人コミュニケーション障害改善が報告され注目を集めている。 オキシトシン受容体のイントロン内に多数同定された自閉スペクトラム症関連SNP(一塩基多型)は、扁桃体などの脳構造変化及び社会性コミュニケーション障害という表現型と相関するが、蛋白質をコードしないイントロンに位置するこれらの塩基配列の個人差が、オキシトシン受容体遺伝子発現にどのような影響を与え、神経回路網を変化させ、表現型に至るのかは未知のままである。 本研究では、社会性行動に関わる脳領域におけるオキシトシン受容体遺伝子の発現制御モジュール(エンハンサー)を同定し、エンハンサー内の塩基配列の個人差による受容体発現パターン・発現量変化が自閉スペクトラム症リスクを説明しうるのかを明らかにすることを目的としている。 研究開始当初は、ヒトゲノム配列を有するBAC(細菌人工染色体)を用いてトランスジェニックマウスを作製して、マウス個体内でヒト固有のエンハンサー活性を可視化し、エンハンサー領域を同定する予定であったが、その後CRISPR/Cas9ゲノム編集技術が飛躍的に進歩したため、本研究でも先進のゲノム編集技術を最大限に取り入れ、より今後の研究展開に有用なモデルマウス作製と解析を行うことにした。具体的にはまず、マウスのオキシトシン受容体発現を正確に可視化できるノックインマウスを作製した。次に、マウスのオキシトシン受容体遺伝子をノックアウトすると当時に、BACを用いてヒトのオキシトシン受容体遺伝子を丸ごとノックインする「ヒト化マウス」作製を進めており、イントロン内の自閉症関連SNPと受容体発現の関係をマウス個体内で解明することを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き、マウス個体内でオキシトシン受容体発現の可視化と、受容体発現を制御するエンハンサー活性の可視化を行っている。 オキシトシン受容体は脳内で広く発現することが知られているものの、受容体蛋白質に対する高い特異性を持つ抗体が市販されておらず、また、mRNAの分布を検出するin situ hybridization法の適用も複数の研究室で試されたが成功していないため、そもそも、マウス脳内での受容体発現パターンを正確に把握する必要があった。このような場合、自己切断ペプチド2Aを利用して、標的遺伝子と共にGFP/RFPなどの蛍光蛋白質を発現させるノックインマウスが有用である。本年度は、CRISPR/Cas9ゲノム編集を用いて、オキシトシン受容体遺伝子座に2A-EGFPあるいは2A-(多重化RFP)を挿入したノックインマウス作出に成功し、受容体発現を明瞭に可視化することができた。 次に、マウスのオキシトシン受容体遺伝子をノックアウトすると当時に、BACを用いてヒトのオキシトシン受容体遺伝子を丸ごとノックインする「ヒト化マウス」作製を進めている。ヒトのオキシトシン受容体遺伝子・イントロン内に自閉スペクトラム症関連SNPが多数存在するが、このイントロンの塩基配列は、マウスとヒトでは大きく異なり、進化的に保存されていない。従って、イントロン内に受容体発現を制御するエンハンサー活性があるのか、また、その塩基配列の個人差が受容体発現に影響を与えうるのかをマウス個体内で解析するために「ヒト化マウス」が有用である。現在、ゲノム編集の条件検討とターゲティングベクター構築を進めている。 当初の予定では、BACトランスジェニックマウスを用いてエンハンサーの同定を行うことにしていたが、ヒト化マウス作製に方針変更したため、モデルマウスの作出が遅れているため、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ゲノム編集により作製したノックインマウスを用いて、オキシトシン受容体発現の可視化とエンハンサー活性の同定を進め、論文投稿準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 物品費が予定よりも少なかったため。消耗品の購入が予定よりも少なかったのは、試薬などを他研究課題と共有することにより、節約することができたため。 (使用計画) 次年度も、今年度に引き続き実験用マウスや胚操作に必要な消耗品を購入する予定である。また、研究成果を論文投稿するための費用を支出する。
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