研究実績の概要 |
本研究は、遺伝的背景の異なる多数の脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy, SMA)患者のiPS細胞由来の神経細胞を用いて複数の試験管内疾患モデルを構築し、薬剤応答性の個人差の要因を解明することなどによって、SMAの標準的な治療法を開発することが目的である。最終的にはSMAモデルマウスを用いて非臨床試験を行い、医師主導治験に繋げることを目指す。 これまでに以下のことを行った。 1)SMAの患者1名からエピゾーマルベクターによる初期化誘導6因子(OCT3/4. SOX2, KLF4, L-MYC, LIN28, p53shRNA)の遺伝子導入にて患者iPS細胞を樹立した。2)既報の無血清凝集浮遊培養法による分化誘導法を改良し、患者iPS細胞由来の脊髄運動神経細胞及び神経膠細胞を作製した。3)正常コントロールのiPS細胞として201B7株を用いて比較検討したところ、患者iPS細胞由来の神経系細胞において、明らかに運動神経の突起が短く、神経膠細胞(GFAP陽性細胞)数の増加や運動神経細胞の細胞死の亢進が観察された。4)構築したSMAの試験管内疾患モデルの有用性を確認する目的で、申請者らが臨床試験等で開発を進めてきた甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン類似薬(Tyrotoropin-releasing hormone analog, TRH)の薬効評価を行ったところ、TRHが患者iPS細胞由来の運動神経細胞の完全長のSMN蛋白を増加するだけでなく、神経突起の伸長にも寄与することを見出した。5)TRHの完全長SMN蛋白の上昇メカニズムを多方面から解析し、SMN2遺伝子の転写活性の上昇とGSK-3βのリン酸化によるSMN蛋白の安定化が寄与していることを見出した。6)遺伝的背景の異なる計18名のSMA患者から線維芽細胞を作製し、すべての患者についてiPS細胞の樹立を行った。
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