研究課題/領域番号 |
16K10008
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構長良医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
舩戸 道徳 独立行政法人国立病院機構長良医療センター(臨床研究部), 長良医療センター臨床研究部, 第二小児科医長 (30420350)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 疾患モデル / iPS細胞 / 薬剤反応性 / 治療薬開発 |
研究実績の概要 |
本研究では、遺伝的背景の異なる多数の脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy, SMA)患者の疾患特異的人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell, iPS細胞)由来の神経細胞を用いて複数の試験管内疾患モデルを構築し、薬剤応答性の個人差の要因を解明することなどによって、SMAの標準的な治療法を開発することが目的である。最終的にはSMAモデルマウスを用いて非臨床試験を行い、医師主導治験に繋げることを目指す。 現在までに、以下のことを行った。 1)SMAの患者1名からエピゾーマルベクターによる初期化誘導6因子の遺伝子導入にて患者iPS細胞を樹立した。2)患者iPS細胞由来の神経系細胞では正常コントロールに比べて、SMN蛋白の減少、運動神経突起の伸長の低下、神経膠細胞数の増加、脊髄運動神経細胞の細胞死の増加、脊髄運動神経細胞数の減少が認められ、試験管内でSMAの病態を模倣することに成功した。3)申請者らが臨床試験等で開発を進めてきた甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン類似薬(Tyrotoropin-releasing hormone analog, TRH)の薬効評価を行ったところ、TRHが患者iPS細胞由来の運動神経細胞の完全長のSMN蛋白を増加するだけでなく、神経突起の伸長にも寄与することを見出した。4)TRHの完全長SMN蛋白の上昇メカニズムを多方面から解析し、SMN2遺伝子の転写活性の上昇とGSK-3βのリン酸化によるSMN蛋白の安定化が寄与していることを見出した。5)SMA患者iPS細胞由来の運動神経では酸化ストレスが亢進し抗酸化ストレス剤が運動神経細胞の細胞死を抑制することなどを見出した。6)現在までに、遺伝的背景の異なる計19名のSMA患者から線維芽細胞を作製し、さらには患者iPS細胞の樹立を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、本研究期間内に以下のことを明らかにしようとしている。 1)遺伝的背景の異なる多数のSMAの患者からiPS細胞を樹立し、それぞれの試験管内疾患モデルを構築する。2)構築した複数のSMAの試験管内疾患モデルに、SMAの臨床試験として試されてきたTRHやVPAを添加し、SMN蛋白の発現量や運動神経突起の長さ、運動神経の細胞死の割合などを解析し、薬剤応答性の個人差を確認する。3)実際の臨床試験におけるTRHやVPAの運動機能解析の結果と試験管内疾患モデルの薬剤応答性のデータを統計学的に解析し、試験管内疾患モデルの結果の裏付けを行う。4)薬剤の応答性の個人差の要因を患者iPS細胞由来の運動神経細胞を用いて、詳細に検討する。5)SMAの患者で認められる神経膠細胞数の増加や運動神経細胞の細胞死の亢進に対して、現在、申請者の研究室で独自に開発中のγ-セクレターゼ阻害剤や抗酸化ストレス剤の効果を複数のSMAの試験管内疾患モデルで解析する。6)各種薬剤の添加条件等を検討することでSMAに対する汎用性の高い治療法を確立する。 現時点で、1)、5)が終了し、2)について、研究を進めている。以上から、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、薬剤応答性の個人差の確認と臨床試験における薬剤反応性との統計学的解析について、重点的に研究を進める。 これまでに構築した多数のSMA患者の線維芽細胞に、多種類の抗てんかん薬(フェニトイン、フェノバルビタール、エトスクシミド、カルバマゼピン、クロナゼパム、ガバペンチン、トピラマート、ラモトリギン、スチリペントールなど)を添加することによって、試験管内での薬剤の応答性の個人差を評価する。さらに、試験管内疾患モデルを用いて、SMN蛋白の発現レベル、運動神経の突起の長さ、運動神経の細胞死の割合などを評価する。 次に、多数のSMA患者の試験管内疾患モデルによって判明した薬剤応答性の個人差が、実際の臨床試験の薬剤反応性と相関するかどうか、主に運動機能解析の評価を基にした臨床データとの統計学的解析により裏付けを行う。
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