研究課題/領域番号 |
16K10020
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
竹下 敏一 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (60212023)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | サイトカイン受容体 / 受容体遺伝子多型 / 川崎病 |
研究実績の概要 |
小児の川崎病は年間10000人以上の患者が発生し、患者数は年々増える傾向にある。さらに、適切な治療を受けないと冠動脈瘤ができることから、その発症機序の解明が試みられている。川崎病の原因は未だ不明であり、現在は遺伝的素因が重要と考えられている。大規模ゲノムワイド解析で見出された主な遺伝子多型は、免疫関連遺伝子であり、川崎病の背景に免疫系が関与していることが示唆されている。しかし、報告された遺伝子多型のオッズ比は1.5~2.0と、余り高くない。オッズ比の高い多型は5%未満の低頻度SNPの中にあると考えられているが、5%未満の低頻度SNPの解析はこれまでの大規模ゲノムワイド解析を上回る情報量が必要とされ、抜本的技術改革が無い限り、網羅的には実行できない。一方、対象分野を限定すれば、低頻度SNPも解析は可能である。我々は長野県下の小児の川崎病患者を対象として解析を行っている。特に難治例、イムノグロブリン不応答川崎病を対象とし、免疫系に関わるサイトカイン受容体を中心に解析を行った。IL-4はサイトカインの中でも免疫系に関わる基本サイトカインの1つとして捉えられている。その受容体、IL-4受容体α鎖にオッズ比7の多型を見出した。興味深いことに、この多型は日本人に特有で、日本人ゲノム情報データーベースから1063人中20人がヘテロで保有している。一方、イムノグロブリン応答例42例には皆無であった。従って、川崎病の発症ではなくイムノグロブリン不応答性に関わることが示唆される。前述したように、川崎病患者は動脈瘤発症のリスクを有しており、そのリスク評価にこの多型が有用性を持つと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は炎症に関わるサイトカイン受容体の多型に対象を絞り、43種類のサイトカイン受容体遺伝子を次世代シークエンサーで読み、インターロイキン4受容体α遺伝子にオッズ比7の遺伝子多型を見出した。現在この結果について論文を投稿(審査中)することができたので、おおむね順調に進んでいる。この多型は日本人データベース1063人中20人が保有している低頻度一塩基遺伝子多型(アレル保有率:1.9%)であった。これまで見出された多型は、人口の数十%を占める、いわゆるcommon single nucleotide polymorphism (common SNP)でオッズ比は1.5~2程度であった。即ち、オッズ比は低いが関連する免疫関連遺伝子多型が複数重なり合って、川崎病発症に関わる、と考えられている。一方で、2015年の罹患率(0~4歳、10万人あたり)は330人であり、即ちこの年齢で0.3%程であることから、人口5%未満の保有する、いわゆる低頻度一塩基遺伝子多型が病態に関与する可能性は十分ある。しかし、頻度のより低い多型を解析するためには、そのことによる膨大な情報量を処理する必要に迫られ、現代の研究キャパシティを持ってしても難しい。本研究では、この点を克服するために、サイトカイン受容体に限定して一塩基遺伝子多型を解析し、これまで検出が困難であった低頻度一塩基遺伝子多型を見出した点は重要である。
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今後の研究の推進方策 |
IVIG療法不応答に関わる新たな多型の探索。今回の一塩基遺伝子多型の同定は、低頻度一塩基遺伝子多型に未同定のオッズ比の高い多型が存在する可能性を示唆する。我々は既にIVIG療法不応答患者30人のDNAエクソーム解析により、198の候補となる多型領域を選出している。この中から新規の低頻度一塩基遺伝子多型を同定する。また、近年、インターロイキン4(IL-4)は血管内皮細胞に対して炎症性に働き、その結果、内皮細胞のバリア機能障害を引き起こすことが分かってきた。従って、IL-4受容体α発現に及ぼす今回の多型の影響について解析する。
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