研究課題/領域番号 |
16K10029
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
千田 淳司 徳島大学, 先端酵素学研究所(次世代), 助教 (20437651)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | プリオン / インフルエンザウイルス / 抗PrP抗体 / 換気障害 / 浮腫 / 多臓器不全 / インフルエンザ脳症 / Src family kinase |
研究実績の概要 |
正常プリオン蛋白質(PrP)は細胞膜表面に局在する糖蛋白質であり、全身で発現し、特に中枢神経系でその発現は高い。PrPの構造変異体(PrPSc)は凝集体を形成して「プリオン病」を引き起こすことが知られている。しかし、PrP遺伝子欠損(PrP-KO)マウスは正常に発育成長することから、PrPの生体機能はこれまで不明であった。 PrP-KOマウスは野生型マウスと比べて、インフルエンザAウイルス(IAV)感染に対して高感受性を示すことが、最近の我々の研究で明らかになってきた。また、マウスへの抗PrP抗体の前投与で、野生型マウスではインフルエンザの重症化を予防できること、PrP-KOマウスではその予防効果が認められないことから、肺で発現するPrPはIAVの重症化を予防する治療標的となる可能性が高いことを見出した。 平成28年度は、インフルエンザ重症化の発症機序を解明するために、1.肺でのPrPの生体機能を明確にする、2.IAVの感染防御に必要なPrPの分子内領域を決定する、3.PrPの凝集体形成能の有無を明らかにすることを目標とした。 その結果、PrPは肺を構成する上皮細胞やII型肺胞(クララ)細胞、I型細胞で発現することを組織染色により確認した。1.PrPはこれらの細胞に「銅」を運搬する役割があることを明らかにした。IAV感染肺では大量の活性酸素(ROS)が産生されこれが細胞死の引き金となるが、PrPはSOD(Superoxide dismutase)に銅を運搬することでROSを無毒化していることを突き止めた。さらに、2.種々のPrP部分欠損トランスジェニックマウスを用いたIAV感染試験により、PrPに特異的な繰り返し配列(OR)領域が銅運搬に関与していることを明確にした。他にも、3.肺で発現するPrPには凝集体形成能は無いことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の計画予定であった、インフルエンザ重症化の発症機序の詳細を解明するために、1.肺でのPrPの生体機能を明確にする、2.ウイルスの感染防御に必要なPrPの分子内領域を決定する、3.PrP結合分子を同定するは既に終了した。 さらに、平成29年度の計画である野生型マウスへのPrP抗体投与試験を行い、4.PrP抗体の作動機序を解明する研究にも既に着手している。平成30年度の研究計画である 5.PrPを分子標的とするリード化合物の探索し関しても、いくつかの候補分子を既に同定している。 従って「当初の計画以上に研究が進展している」ものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、野生型マウスへのPrP抗体投与試験を行い、PrP抗体の作動機序を解明する。さらに、これまでに同定したPrPを分子標的とするリード化合物について、マウスでのウイルス感染試験を実施し、その治療効果について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計上していた学会旅費(仙台)の交通費を「パック旅行」にしたため、旅費が抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の学会旅費として繰り越したい。
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