研究課題
造血幹細胞移植の移植前処置で使用されるアルキル化薬、Busulfan (BU)とCyclophosphamide (CY)について、遺伝子多型だけでは予測できない薬物動態を、Glutathione S-transferase活性、Glutathione (GSH)濃度と血中薬物、代謝物濃度の観点から致死的副作用発現との関係を解析し、小児患者で薬物代謝能力に応じた安全かつ効果的な至適投与方法を確立することを目的とした。我々はこれまでCY心毒性の発生機序を解明すべく研究を行ってきた。その中でラット心筋細胞を用いた研究で、CY代謝物の1つであるacroleinがCY心筋障害の発症に関与する可能性を見出した。不飽和アルデヒドであるacroleinは反応性が高く、GSHと容易に結合を作りその消耗に寄与している。今回我々は、CYからacrolienの産生に大きな役割を果たすアルデヒド脱水素酵素(ALDH1A1)に着目しALDH1A1の発現とacrolein産生の関係について検討した。6週齢の雌のC57BL/6Jマウス16匹を8匹ずつ2群に分け、一方の群にはALDH1A1遺伝子に相補的なsiRNAを投与し遺伝子をノックダウン(KD)した。もう一方の群は対照群とした。KDから72時間後にCYを腹腔内投与しLC/MS/MS法を用い血漿中のCY及びその代謝物(4-hydroxycyclophosphamide;HCY, carboxyethylphosphamide mustard;CEPM)濃度を測定した。その結果KD/CY群において血漿中のCEPMの血中濃度時間曲線下面積の有意な低下が認められ、ALDH1A1の発現が低下した状況下では、CYからCEPMへの代謝経路が抑制され、細胞毒性の強いacroleinが産生する経路が増強し心筋障害を誘導することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
最も難航を予想していたマウス尾静脈から採血したごく微量の血液でCYの代謝物濃度を測定することができた。またacroleinの産生に関与していると考えられているマウスALDH1A1遺伝子のノックダウンが、きちんと再現性を持って行うことができるようになった。あとは、この方法を用いてALDH1A1遺伝子のみならず他のGST遺伝子あるいはGSH産生に関与するCTH遺伝子ノックダウンマウスを作成し血中薬物・代謝物濃度の測定を行えばよいため、概ね順調に進展していると判断した。
今後は、GST遺伝子あるいはGSH産生に関与するCTH遺伝子ノックダウンマウスを作成し血中薬物・代謝物濃度の測定を行い生化学的評価、病理学的評価と合わせてBUやCYの致死的副作用とGST活性、GSH濃度の関係を明らかにしていく。
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