研究課題
Cyclophosphamide(CY)大量投与で生じる急性心筋障害は臨床上大きな問題となっているが、その発症機序は未だ不明である。我々はラット心筋細胞を用いたin vitroの研究で、acroleinが関与する可能性を見出した。今回我々は、そのacrolien発生に大きな役割を示すアルデヒド脱水素酵素(ALDH1A1)に着目しCY心筋障害の発生機序を解明することを目的とした。6週齢の雌のC57BL/6Jマウス16匹を8匹ずつ2群に分け、一方の群にはALDH1A1遺伝子に相補的なsiRNAを投与することで遺伝子をノックダウン(KD)した。もう一方の群は対照群とし、トランスフェクション試薬のみを投与した。KDから72時間後にCYを腹腔内投与し血漿を回収しLC/MS/MS法を用いCY及びその代謝物(4-hydroxycyclophosphamide;HCY, carboxyethylphosphamide mustard;CEPM)濃度を測定した。CY投与から24時間後に麻酔下で心臓及び肝臓を摘出した。KD群と対照群で、CY投与によるマウスの死亡率に違いはなかった。しかし病理組織学的検査ではALDH1A1遺伝子KD群と対照群の心筋組織に違いが見られた。対照群で、CY投与で左心耳、右心耳、左心室、右心室に鬱滞が認められた。それに対してKD群ではCY投与で左心室壁、心室中隔、右心室壁の菲薄化が中程度に認められ、心筋線維の横紋の減少、細胞質の染色性の低下が高度に認められ、明確な心筋障害病変を認めた。またこの時、KD/CY群において血漿中のCEPMの血中濃度時間曲線下面積が有意に低下しており、ALDH1A1の発現が低下した状況下では、CYからCEPMへの代謝経路が抑制され、細胞毒性の強いacroleinが産生する経路が増強し心筋障害を誘導することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
最も難航を予想していたマウスALDH1A1遺伝子のノックダウンが、きちんと再現性を持って行うことができるようになった。あとは、この方法を用いて、ノックダウンマウスを作成し、サンプリングを繰り返せばよいため、概ね順調に進展していると判断した。
今後は、in vitro実験系で心筋障害の予防に有効であったN-acetylcysteinを用いて、マウスの心筋細胞もある程度予防できることが可能か検討する。また、そのときにマウスの体内でCY代謝物の動態がどのようになっているか検討する。
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