研究課題
原因不明の溶血性貧血を対象に赤血球膜異常症、赤血球酵素異常症、ヘモグロビン異常症のスクリーニング検査を実施した。2016年~2017年に解析した症例は1歳未満が36例、1歳以上が100例であり、そのうち診断を確定し得たのは1歳未満が19例(53%)、1歳以上が84例(84%)で、新生児から乳児期の先天性溶血性貧血に関しては診断率が低いことが明らかになった。我々は口唇赤血球症の一型である脱水型遺伝性有口赤血球症(dehydrated hereditary stomatocytosis; DHSt)の迅速診断法としてフローサイトメトリーによる定量的赤血球浸透圧脆弱性試験(FCM-OF)が有用であることを明らかにした。今回検討した1歳未満の先天性溶血性貧血36例中7例(19%)にはFCM-OFの異常高値が認められたため、そのうちの3例に対してDHStの病因遺伝子であるPIEZO1、KCNN4を含めた溶血性貧血関連68遺伝子を対象にしたTarget-captured sequencing(TCS)解析を実施したが、対象にした3症例にはPIEZO1/KCNN4を含めて溶血性貧血関連遺伝子に変異は同定出来なかった。現在FCM-OFで異常高値を呈した7例をフォローアップしているが、1歳を過ぎてから溶血所見が自然軽快している例が認められたことから、FCM-OF高値の7症例は、Infantile pyknocytosis(IP)に分類されると考えている。IPは新生児~乳児期の原因不明先天性溶血性貧血の10%程度に認められる一過性の溶血性貧血であり、脱水を来した奇形赤血球(piknocyte)の存在が特徴である。今回の検討により、FCM-OFがIPの診断マーカーとなり得ることが示唆されたため、今後も先天性溶血性貧血の病因スクリーニングには、FCM-OFとTCS解析が必須と考えられた。
3: やや遅れている
iPS細胞樹立を担当する予定であった分担研究者が移籍のため共同研究の遂行が不可能となり、ミトファジー関連遺伝子変異を同定した3症例からのiPS細胞が得られていない。末梢血における赤血球ミトコンドリア数およびミトコンドリア機能の定量に関しては、正常対照を用いた基準値作成が進行中であり、次年度からは原因不明の先天性溶血性貧血症例を対象とした検討が可能な状況になっている。ミトコンドリア膜電位差の検討、オートファジーマーカーLC3の検出は未だ基礎的な検討が出来ていない。
今後は原因不明の先天性溶血性貧血症例を対象としたFCM-OF検査およびTCS解析を継続し、ミトファジー関連遺伝子変異による症例の抽出を進める。共同研究先の東京大学医科学研究所の協力を得て、既に診断し得たミトファジー異常による溶血性貧血症例からのiPS細胞樹立を再開する。同時に赤血球ミトコンドリア数およびミトコンドリア機能の定量を新たなスクリーニング検査として導入し、検討を開始する。
測定機器の不具合により進捗に影響があったため、次年度使用額が生じた。平成30年度には検体測定数が大幅に増加するため、測定試薬・消耗品の購入に充当する計画である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 1件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件)
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