研究課題/領域番号 |
16K10047
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
柏木 孝仁 久留米大学, 医学部, 講師 (70320158)
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研究分担者 |
原 好勇 久留米大学, 医学部, 准教授 (40309753)
渡邊 浩 久留米大学, 医学部, 教授 (90295080)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インフルエンザウイルス / ポリメラーゼ / PB2 / PA / 阻害薬 |
研究実績の概要 |
インフルエンザウイルスはRNAを遺伝子に持ち、独自のRNAポリメラーゼを用いて遺伝子複製を行っている。このRNAポリメラーゼは抗インフルエンザウイルス薬のターゲットとなりうる。現在の抗インフルエンザ薬はNA阻害薬に分類され、作用機序が全く同じである。最近、このRNAポリメラーゼをターゲットとした薬剤も開発されたが、変異速度の速いウイルスに対しては、常に様々な視点から様々な作用機序を想定した抗ウイルス薬開発が必要である。我々はこれまでにインフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼを構成する、PAおよびPB2サブユニットに自身の活性を制御する機能があり、さらにこれらの小断片には、遺伝子複製及び転写活性の阻害効果があることを示してきた。特にPAサブユニットの小断片には独特の阻害作用がある。興味深い事にこの阻害効果はRNAポリメラーゼの活性を阻害しているのではなく、RNAポリメラーゼそのものの発現を抑制することに由来していた。そこで我々はこのRNAポリメラーゼの発現の抑制作用にPA断片がどのように関わるっているのかそのメカニズムを解明することとした。まず、PA断片の高発現系を構築し、高純度な精製が行えるかの検討を行った。結果、大腸菌を用いた発現系によりPA断片の高発現を確認できた。また、高濃度の塩条件下によるHisタグ精製によってある程度の精製を行うことができた。この生成物を用いて、試験管内にてPAの小断片の生理的機能を確認したところ、エンドヌクレアーゼ活性が存在していた。また、このエンドヌクレアーゼの活性部位を変異した小断片にはRNAポリメラーゼの発現抑制活性が認められなかった。すなわち、PAの小断片によるRNAポリメラーゼの発言抑制効果にはエンドヌクレアーゼ活性が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、PAの小断片による阻害メカニズムを探るために高発現かつ高純度な断片の精製系構築を目指した。高発現系に関しては、大腸菌を用い構築することができた。精製については当初、十分な量を確保することが困難であったが、様々な塩濃度条件を検討し、高濃度条件で試験管内で生理活性を測定するための必要最低限の量を確保する手段を得た。この生成物を用い断片の生理活性を測定したところ、エンドヌクレアーゼ活性を確認することができた。また、エンドヌクレアーゼ活性部位を変異したところ、阻害効果が失われた。このことからPAの小断片によるRNAポリメラーゼの発現抑制効果にエンドヌクレアーゼが関与していることが強く示唆された。しかし、これまでのメカニズムの検討で、RNAポリメラーゼの発現抑制に、エンドヌクレアーゼの本来のターゲットであろうDNAやmRNAは関わっていない事が確認された。これは、小断片にエンドヌクレアーゼ活性が見いだされたことと矛盾しており、当初の仮定を見直す必要ができたため研究にやや遅延が生じている。しかしながら、PAの小断片の発現系と最低限の精製系は得ており、試験管内でのエンドヌクレアーゼ活性の測定法も構築できた。今後の研究推進について大きな問題はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
PA断片によるインフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの発現抑制に、この断片のエンドヌクレアーゼが関わっている事は明白である。また、ヌクレアーゼ活性であることから、そのターゲットは核酸であることも疑いようがない。しかしながら、ターゲットとなりうるDNAやmRNAには影響を与えていない。そこで、この当初のメカニズムの仮定には含まれていなかった核酸がターゲットであることを想定する必要がある。DNAやmRNA以外に、細胞内に存在する核酸で細胞やウイルスの活動に関与する核酸として、Small RNAの存在があげられる。中でも、miRNA(マイクロRNA)については様々なウイルスで増殖に関わっている事が報告されており、インフルエンザウイルスにおいても、様々なmiRNAがインフルエンザの感染や増殖に関わるという報告がある。そこで我々はこのmiRNAを含むSmall RNAについて網羅的に解析を行い、PA断片のエンドヌクレアーゼのターゲットとなるものがあるか確認を行う事とした。まずは、次世代シーケンサーを用いて、PA断片の存在下・非存在下で、Small RNAやmiRNAを網羅的に解析し、これらのRNAに量的・質的影響を与えているものがあるか比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
PA断片によるRNAポリメラーゼの発現阻害効果のメカニズムを検討する過程で、断片のエンドヌクレアーゼのターゲットとして当初仮定していたDNAやmRNAではないことが確認された。そこで、仮定の再検討が必要になり、新たな仮定による研究計画を立てるに至った。当初予定していた消耗品を用いる必要がなくなり、また次世代シーケンス用に新たに別の消耗品が必要となった。このため、当初計画していた予算との間に差額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次世代シーケンサに用いる試薬は高額であり、翌年度請求分と合わせて当該研究に必要な消耗品代として使用する。
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