インフルエンザウイルスは遺伝子複製酵素を有している。この酵素のPAサブユニットに独自の阻害活性(自身が自身を阻害する)を見つけ、阻害薬への応用を試みた。さらにPAを断片化することで阻害作用が高まり、188アミノ酸からなるPA断片が阻害活性を持つ最小断片であることを見出し、また断片の持つエンドヌクレアーゼ活性の関与が確認できた。インフルエンザに特異的な阻害であることから、自己と非自己を区別するメカニズムがあり、メカニズムの解明をさらなる主眼とした。メカニズム解明に向け、188アミノ酸からなる小断片の大量発現・精製系を構築した。大腸菌を用いた系では、発現量の確保はできたが精製度が低かった。組換バキュロを用いた系では、エンドヌクレアーゼ変異体については、十分な発現量と精製度を確保できたが、エンドヌクレアーゼ活性体は組換バキュロを得ることができなかった。断片の活性により、バキュロウイルスの増殖が阻害されていることが示唆された。このエンドヌクレアーゼに特異的な阻害薬存在下での組換バキュロウイルス作成の準備を進めている。またこのアイデアを元にRSウイルスでも同様の阻害作用を持つ断片の構築を行いさらなる応用へと進んでいる。 一方で、インフルエンザウイルスは、自身の遺伝子を効率よく複製するために、RNA遺伝子の自己・非自己区別を、インフルエンザに特異的なプロモーター配列を介して行っている。そこで、PA断片によるウイルスの阻害とは別のアプローチとして、RNAiを用いたプロモーター配列の抑制による阻害効果を確認した。結果、PB2セグメントに存在するプロモーター配列に対するRNAiによりPB2タンパク質の発現を抑制できることが確認できた。現在は、PAやPB1セグメントのプロモーター配列に対するRNAiを検討すると共に、実際のウイルス形成にこのRNAiが阻害的に作用するか確認を行っている。
|