研究課題
研究目的:これまで腫瘍の遺伝子異常は多段階的に蓄積されるとされていたが、次世代シークエンサーNGS解析によって、クロモスリプシス(染色体粉砕:chromothripsis)という一度に1~数本の染色体に粉砕が生じ、数十から数千のDNA断片化と再結合が起こりキメラmRNAや欠失が多数生じる新たな発がん機構が注目されている。クロモスリプシスは、がん全体の2~3%、骨腫瘍の25%、Li Fraumeni関連腫瘍の36%に発生すると報告されている。思春期・若年成人(Adplescent and young adults:AYA)を中心に難治性造血器腫瘍を解析した。対象:染色体分析で複雑核型、17p-、dmin (double minutes)、再発白血病、二次性白血病等から、AYA患者10例(12~38歳)。方法・結果:1)骨髄標本でクロモスリプシスの一現象とされる小核を観察したが、一部は他の構造物との鑑別が難しかった。2)SNPアレイ解析CytoScan 750Karray (Affymetrix)で、限られた染色体内に遺伝子増幅や欠失が集中する例を確認した。3)FISH法a) クロモスリプシスは、テロメア消失と二動原体の同時活性化Breakage Fusion Bridgeが発生機構という説があり、PNA (Peptide nucleic acid)-FISH法により二動原体を解析した。この結果、dmins 例にG分染で判定困難なringを確認した。b) multi -color FISHを行った。4)RNA-sequencing (Illumina HiSeq4000)で、T-ALLに新規BCL11B融合遺伝子、二次性AMLにNUP98 融合遺伝子、再発ALLからまれなMEF2D、ZNF386融合遺伝子を検出し順次全ゲノムシークエンスWGS解析も行っている。
3: やや遅れている
次世代シークエンスの結果を得るために計画より時間がかかってしまった。
1)解析結果からクロモスリプシスと考えられた白血病、MDSの予後や特徴的な臨床像との関連を明らかにする。2)形態像(小核)、染色体検査、FISH、およびSNPアレイ解析からクロモスリプシスの疑われる症例について、RNA sequencingとWGSで確認する。今回検出された新規NUP98融合遺伝子をもつ二次性白血病において、WGSによって特定の染色体上に断片化が起きていることが検出されている。新規BCL11B融合遺伝子をもつT-ALLにおいてもSNP アレイによってクロモスリプシス様変化が疑われるため、WGSを行っている。またまれな既知のMEF2D、ZNF386融合遺伝子をもつ白血病についても、クロモスリプシスの観点から詳細に解析する。3)TP53、RAS、NPM1、SETBP1遺伝子等のゲノム損傷修復遺伝子を解析し、その異常とクロモスリプシスとの関連を明らかにする。4)臨床検査レベルで、クロモスリプシスの検出可能な簡便な方法としてPNA-FISHを検討している。クロモスリプシスは複雑核型造血器腫瘍に多く見つかると報告があるため、PNA-FISHでクロモスリプシスの疑いの低い正常核型の結果とも比較する予定である。5)症例数を増やすとともに、研究過程でみつかった新規融合遺伝子については、さらなる解析を行う。
次世代シークエンスの結果を得るのに予定よりも2ヶ月程度多く時間がかかり、次の実験に進めなかったことが一つの要因となった。その後、結果は順調にでており、今年度中に遅れていた検体の解析を終了できるよう急いで行なっている。
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