研究課題/領域番号 |
16K10051
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研究機関 | 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所) |
研究代表者 |
竹信 尚典 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), 臨床腫瘍研究所, 研究員 (60392247)
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研究分担者 |
上條 岳彦 埼玉県立がんセンター(臨床腫瘍研究所), 臨床腫瘍研究所, 研究所長 (90262708)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 発がん / 細胞分化 / トランスジェニック動物 |
研究実績の概要 |
神経および脳腫瘍の幹細胞マーカーであるCD133は、神経芽腫の幹細胞が濃縮される不要細胞塊(以下スフェア)培養において発現が誘導される。また、CD133はp38MAPKおよびAKTのシグナル活性化を介して幹細胞製の維持に働くことが明らかとなった。また、CD133を過剰発現するとスフェア内での細胞の生存率が上昇し、CD133はがん幹細胞の位置に重要な役割を持つことが示唆された。このことから、神経芽腫幹細胞においてCD133が発現誘導されており、その結果分化が抑制され、CD133は神経芽腫の悪性化に寄与していることが示唆された (Oncogene, 2011, (30) 97-105)。また、神経芽腫スフェアではCD133の上流に存在する5つのプロモーター領域のうち、プロモーターP1からの転写が活性化していることから、プロモーターP1に結合する転写因子を網羅的に解析した結果、転写因子CDX1を同定した。CDX1の高発現は神経芽腫細胞のin vitro/vivoでの増殖を促進し、スフェア形成を誘導した。また、神経芽腫スフェアおよびCDX1の遺伝子発現解析から、幹細胞性の維持と、静止状態の維持という、がん幹細胞に重要な遺伝子が発現亢進・低下していることが明らかになった (論文作成中)。 そこで、CD133およびCDX1を組織特異的に発現するマウスを作出するため、トランスジェニック(Tg)マウスを作成した。Rosa26領域に導入されるTgベクターは、ES細胞へ導入され、マウスを作出した。また、神経芽腫の起源である神経堤特異的に発現させるため、DBHプロモーターで発現するCreを持つマウスを入手して繁殖を行った。さらに、THプロモーターの下流でCreを持つマウス等も作出中である。それらのマウスを用いて、発現および発がんへの影響を検討中であるが、同時にがんを作りやすい129系統のマウスへの交配も同時に行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CD133およびCDX1を組織特異的に発現するTgマウスを作出した。Rosa26領域にTgを持つマウスでは、今のところ著明な発がん傾向などは見られておらず、Cre遺伝子が必要であることが示唆された。そこで、神経堤細胞の移動とともに発現する、DBHプロモーターによって制御されるCre遺伝子を持ったマウスと交配することで、神経芽腫の発現初期と同様の環境で、CD133またはCDX1が発現することが期待されるため、現在交配および生まれたマウスの発がんへの影響を検討中である。また、CDX1は数多くの幹細胞関連遺伝子およびシグナル経路の活性化を引き起こすことが予想されるため、CDX1を高発現した細胞と、スフェア形成を行った細胞のRNAを用いて、網羅的な遺伝子発現解析を行った。これにより、CDX1の発現およびスフェア形成によって、ES・iPS細胞関連の遺伝子の発現が上昇しており、神経芽腫の幹細胞性の維持に働いていることが示唆された。一方で、いずれの細胞でも、細胞増殖に関る一部の遺伝子の発現は低下傾向にあり、幹細胞性は維持するが、増殖は静止することが明らかになった。In vitroでの結果は、現在論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
CDX1の高発現によって誘導される、幹細胞関連遺伝子およびがん関連遺伝子の網羅的解析を更に進め、既存の阻害剤等での治療法開発を試みる。また、スフェア形成時にCDX1が発現誘導されるメカニズムを、ヒストン修飾を中心にした解析で明らかにする。なお、CDX1のin vitro/vivoの機能解析については、論文の投稿を行う。 CD133またはCDX1をRosa26領域に持つTgマウスとDBH0-Cre発現マウスとを交配し、CD133またはCDX1の高発現と発がんについて、in vivoイメージャー等を用いて経時的に観察するとともに、発生した神経芽腫組織の細胞を単離してin vitroの解析を行う。さらに、神経芽腫を自然発症するMYCNトランスジェニックマウスと交配して、神経芽腫の発生率、転移率の上昇とマウスの死亡率についての解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の試薬の在庫が存在せず、年度末までに届かなかったため、多少の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
在庫が回復次第、発注を行い、研究を再開する。
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