研究課題
これまでに複数のゲノムワイド関連解析において、小児期発症の気管支喘息と強い相関を持つ領域として第17染色体q12-21が同定されており、疾患感受性遺伝子の有力な候補としてORMDL3分子に注目が集まっているが、その作用機序はいまだに明らかとなっていない。研究初年度に、ヒト下気道上皮細胞を用いた検討においてORMDL3はウイルス感染時に小胞体ストレスを介して気道炎症を増悪させる機序が示唆されており、まず今年度は複数ある小胞体ストレス応答系路のうち、どの系路の作用が重要であるかを検索した。次に当初から2年次に予定していたヒト末梢血T細胞における検討を開始したが、予想していたORMDL3分子の発現レベルより実際の発現レベルがかなり低値であることが判明し、遺伝子ノックダウンの効率も芳しくない状況であったため、別の方法での検討を開始した(後述)。また、前年度までにCRISPR-Cas9システムを用いて樹立したormdl3ノックアウトマウスを用いて、ウイルス感染時におけるormdl3分子機能の解析を開始した。具体的にはdsRNA吸入の気道ウイルス感染モデルにおける肺胞洗浄液、肺組織におけるサイトカイン・ケモカインの発現レベルを検討し、ワイルドタイプとの差を解析している。現在までのところ、吸入するdsRNA濃度によって遊走細胞やサイトカイン・ケモカインの誘導に差を認めており、小児期のウイルス感染モデルとして最適な濃度での実験で再現性を確認しているところである。
3: やや遅れている
前述したように、ヒト末梢血T細胞におけるORMDL3の機能について検討を開始したが、既報より予想していた発現レベルより実際の発現レベルがかなり低値であることが判明した。またヒト下気道上皮細胞時に使用した手法での遺伝子ノックダウンの効率も芳しくない状況であったため、当初から代替手段として考慮していたヒトのリンパ腫細胞株を使用することとした。具体的には遺伝子発現データベースを用いてORMDL3遺伝子発現レベルが高く、細胞障害性分子の発現が認められるT細胞リンパ腫の細胞株HUT-78を用いることとしたところ、経過中に保有する細胞株へのマイコプラズマ感染が発覚したため、再度購入して実験を再開したところである。またormdl3ノックアウトマウスでの検討については、系統の繁殖・維持中にトラブルが生じて個体数が減少したため、現在立て直しを図っており、今後の実験に備えている状況である。
T細胞リンパ腫の細胞株HUT-78に対して、ORMDL3遺伝子のノックダウンや過剰発現を行い、細胞障害性分子の発現変化やサイトカイン・ケモカインの産生能の変化等の解析を行う。またormdl3ノックアウトマウスにおける検討については、系統を再度繁殖させ、十分な個体数が揃ったところでdsRNA吸入によるウイルス感染モデルでの実験の再現性を評価し、順調に進めばヒトリンパ腫の実験で得られる予定であるORMDL3分子のT細胞における機能についてもマウスでの再現性が認められるか否かをさらに評価する予定である。上記のごとくヒトとマウスの実験を並行して進めて成果を解析し、初年度を中心に行った気道上皮における機能解析も含めた論文作成に尽力する。
(理由)実験計画の遅れに伴い、必要な試薬等の購入を先送りとしたため。(使用計画)昨年度に予定していた解析に必要な試薬を購入する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件)
The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice
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