研究課題/領域番号 |
16K10055
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
田中 完 弘前大学, 教育学部, 教授 (50271820)
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研究分担者 |
吉田 秀見 弘前大学, 医学研究科, 講師 (40201008)
今泉 忠淳 弘前大学, 医学研究科, 教授 (90232602)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メサンギウム細胞 / 腎糸球体内皮細胞 / Toll-like receptor 3 / Interferon-β / Cylindromatosis / CXCL1 / 慢性腎臓病 |
研究実績の概要 |
糸球体構成細胞群の炎症経路群の制御機構を解析し,将来的な CKDの新規治療法開発につなげる目的で以下の検討を行った。 1. 培養ヒトメサンギウム細胞 (MCs)における Cylindromatosis (CYLD: 様々な細胞において NF-κBを抑制的に制御するとされる)の意義を検討した。CYLDを RNA干渉法で knockdownした MCsを人工合成ウイルス dsRNAの polyinosinic-polycytidylic acid (poly IC)で刺激し,これまでのわれわれの報告で示された Toll-like receptor 3 (TLR3)/interferon (IFN)-βを介して発現する代表的な炎症経路群 (TLR3/IFN-β/RIG-I/CCL5と TLR3/IFN-β/MDA5/CXCL10) への影響を検討した。CYLDの knockdownは RIG-I/CCL5, MDA5/CXCL10の発現をタンパクレベルで増加させた。一方, IFN-βと STAT1のリン酸化には影響しなかった。腎生検組織では増殖性ループス腎炎で CYLDの染色性が明らかであった。CYLDは TLR3/IFN-βを介する炎症経路群を抑制的に制御している可能性がある。 2. 培養ヒト糸球体内皮細胞 (GECs)における TLR3/IFN-βを介する炎症経路群の詳細は不明である。GECsは直接血流と接するため,好中球の遊走・接着に関わるTLR3/IFN-β/CXCL1とTLR3/IFN-β/E-selectinの発現を検討した。結果, GECsにおける poly IC刺激で上記炎症経路群が活性化することが示された。腎生検組織では好中球活性化の関与が大きい半月体形成性腎炎で内皮細胞領域に有意な CXCL1の発現が確認された。GECsでの TLR3/IFN-βを介する炎症経路群の制御は CKDの病態を改善する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎糸球体構成細胞における自然免疫を介した炎症経路群の詳細の解析は,当初の予定通りほぼ順調に進んでいる。 1. 腎メサンギウム細胞を用いた実験ではこれまで報告に乏しいCylindromatosis (CYLD: 様々な細胞において NF-κBを抑制的に制御するとされる)の意義を検討し,新たな知見を見出した。ヒトの腎組織においても病態により異なる CYLDの染色性が確認されたことから,CYLDは TLR3/IFN-βを介する炎症経路群を抑制的に制御しており,慢性腎臓病の新たな治療のターゲットとなり得る。 2. 腎糸球体内皮細胞では,腎メサンギウム細胞と同様に TLR3/IFN-βを介する炎症経路群が腎局所に浸潤する好中球の活性化に関わる可能性を見出した。このことは慢性腎臓病がウイルス感染などを契機に悪化する機序のいったんを示唆しており,今後の治療戦略の構築の基礎となり得る。 一方,腎糸球体内皮細胞の培養は腎メサンギウム細胞の増殖と異なる点があり,当初の実験計画が順調に進まない点もあったが,年度末にはおおむね良好な成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は腎糸球体内皮細胞での TLR3や TLR4を介する炎症経路群の解析を加速させ,研究課題である慢性腎臓病の新規治療法への足掛かりをより強固なものとする予定である。 具体的にはこれまで腎メサンギウム細胞で確認されたマクロファージ遊走・活性化に関わる TLR3, TLR4を介する炎症経路群に関して,腎糸球体内皮細胞での検討を行うことで両細胞間の相違の詳細を検討する。また,可能であれば両細胞間をクロストークのいったんを明らかとする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
腎糸球体内皮細胞の培養において,これまで行ってきた腎メサンギウム細胞の培養と状況が異なる点が判明し,実験計画の遂行に多少の遅れが生じたためである。今年度は腎糸球体内皮細胞培養の状況を十分に把握しており,予算の使用に基づいた予定の実験計画は順調に進むものと考えている。
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