研究課題/領域番号 |
16K10056
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大田 千晴 東北大学, 医学系研究科, 非常勤講師 (00733106)
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研究分担者 |
菊池 敦生 東北大学, 大学病院, 助教 (30447156)
丹藤 由希子 東北大学, 医工学研究科, 教育研究支援者 (70596212)
木村 正人 東北大学, 大学病院, 助教 (80646894)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ABCA3 / サーファクタント蛋白 / 2型肺胞上皮細胞 / 肺胞上皮前駆細胞 / 分化誘導法 / 小児間質性肺炎 |
研究実績の概要 |
ABCA3蛋白は,surfactant輸送・代謝,肺胞恒常性の維持に重要な役割を担い,肺胞形成および恒常性の維持にとって不可欠な蛋白である.このため,種々のABCA3遺伝子変異が新生児期の致死的肺傷害や小児期の間質性肺炎の原因となる.我々は近年,ヒト肺より肺胞上皮前駆細胞 (alveolarepithelial progenitor cells; AEPCs)を分離・培養する方法を開発した.AEPCs は2 型肺胞上皮細胞(AT2)特異的蛋白であるproSP-Cと間葉系マーカーを同時にを発現し,AT2への分化能を持つ. 今回,我々はABCA3 遺伝子exon21およびexon25に複合ヘテロ接合体変異を有する8歳男児の生体肺移植時の摘出肺からABCA3遺伝子変異を有するAEPCs (ABCA3mt/mt-AEPCs)を初めて樹立することに成功した.また,肺機能正常の患者肺から樹立したABCA3wt/wt-AEPCsとABCA3mt/mt-AEPCsでは表現型やAT2への分化能に相違があることから,ABCA3mt/m-AEPCsはABCA3 変異によるAT2機能傷害を反映している可能性が示唆された.本研究では,ABCA3mt/m-AEPCs を用いてABCA3 変異によるAT2 機能傷害のメカニズムを明らかにし,機能障害の改善のための薬剤を検索することを目的とする. 平成28年度は,ABCA3wt/wt-AEPCsおよびABCA3mt/mt-AEPCs由来AT2におけるサーファクタント蛋白プロセシング能の相違を明らかにし,さらに,薬剤スクリーニングに最適の培養系を構築中である.また,flow cytometryによる新たな細胞内蛋白同定法を確立中である.平成29年度はこれらの系を用い,遺伝子発現解析および薬剤スクリーニングを行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度研究計画(1)Surfactant合成/分泌能の解析については,ABCA3wt/wt-AEPCsおよびABCA3mt/mt-AEPCsを用い,AEPCsからAT2への分化誘導を行った. 分化誘導開始5日後に細胞を回収して蛋白を抽出し,western blotting法およびELISA法を用いて,proSP-Cとmature SP-Cの割合について解析を試みた.Western blotting法では,proSP-Cおよびmature SP-Cを検出することが出来なかった.一方,培養上清中のproSP-Cを検出するELISAでは,ABCA3mt/mt-AEPCs由来AT2でABCA3wt/wt-AEPCs由来AT2より優位に高いproSP-Cを検出した.これはABCA3mt/mt-AEPCs由来AT2におけるラメラ体内proSP-Cプロセッシングの低下を示唆している可能性がある.また,現在,細胞内蛋白であるSP-C発現細胞をFACSでソーティングし,遺伝子発現を検出するシステムを構築中である.このシステムを用いることで,ABCA3wt/wt-AEPCsおよびABCA3mt/mt-AEPCs由来AT2の遺伝子発現比較を行うことが可能であると考えられる. 研究計画(2)薬剤スクリーニングについては,近年提唱されているorganoid assayシステムを構築中である.従来の報告どおり,肺胞上皮細胞を用い,種々の成長因子を加えて培養した検討では,proSP-Cを発現するAT2の維持およびAT1への分化誘導を確認することができた.また,薬剤投与によって種々の因子の発現が変化することも確認できた.このため,このシステムを陽性コントロールとし,ABCA3wt/wt-AEPCsおよびABCA3mt/mt-AEPCsを用いた同様の検討を行い,薬剤スクリーニング系を構築したい.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,現在構築している新たな培養系と,FACSを用いた評価法を用い,ABCA3wt/wt-AEPCsおよびABCA3mt/mt-AEPCs由来AT2を用いた薬剤スクリーニングおよび網羅的遺伝子発現解析を行いたいと考えている.また,Abca3wt/mtマウスモデルの構築および解析準備を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度はSPCスクリーニング系の構築に時間を要し,当初予定していた薬剤スクリーニングを行うことができなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度はスクリーニング系を構築し,薬剤スクリーニングを行う.また,FACSでソーティングした分化後のSPC陽性細胞を用いた網羅的遺伝子発現解析を行うため,その経費として使用する.
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