研究課題/領域番号 |
16K10059
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
犬塚 亮 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (00597560)
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研究分担者 |
平田 陽一郎 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40447397)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 先天性心疾患 / 発生 / 心筋症 / 内臓錯位 / 線毛機能 |
研究実績の概要 |
2017年度中に、新たに6家系の発症者を含むトリオ(18例)に対し、全エクソーム解析を実施した。その後の、情報科学的解析により、複数の疾患原因遺伝子を同定した。これらの成果は、以下に示すごとく、学術集会および英語論文で報告した。線毛機能不全に合併した心房心室あるいは心室大血管構築不一致の遺伝子解析から疾患原因遺伝子を同定し、これらの心奇形が内臓錯位症候群と同一スペクトラムに在る、という「heterotaxic heart defect」の概念を支持する結果として報告した。なお、発表時点でDNAAF1遺伝子変異による内臓錯位は初めての報告であった。また、全身合併奇形を伴わない孤立性の大動脈弁上狭窄症の患者において未報の新規ELN遺伝子変異を同定し、学術集会において報告した。孤立性右室流出路狭窄という、閉塞性肥大型心筋症としては稀な表現型を取った幼児例において、サルコメア遺伝子上に2つの変異を同定し、両変異の相乗作用について考察した内容を、学術集会において報告した。 執筆した論文においては、心筋細胞の無秩序な増殖によって発症する心筋症、という新たな疾患概念を提唱し、またその分子遺伝学的な機序を考察した。現在進行中の、内臓錯位症候群に関連した新規遺伝子の探索・機能解析について、国際シンポジウムで報告した内容が対外的にも評価され、優秀ポスター賞を受賞した。 こちらの研究計画については、動物モデルを用いた機能解析を進めているが、ヘテロ変異体の作出に成功し、交配によりホモ変異体系統を得、維持・解析することを準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度中に、新たに6家系(18例)から被験者として参加することに同意を頂き、全エクソーム解析を実施した。その後の情報科学的解析によって、複数の疾患原因遺伝子を同定することに成功し、学会発表および英語論文として報告した。なお近年、本研究実施施設の特色として、重症心筋症患者の診療ニーズが増してきている中で、同疾患を対象にした遺伝子解析を本年度から試みている。遺伝学的検討と病理学的解析手法を組み合わせることにより、「心筋細胞の無秩序な増殖による心筋症」という新たな疾患概念を提唱した。本疾患概念の妥当性については、今後、他グループからの批判的吟味・続報を待ちたい。 より探索的な内容として進めてきた内臓錯位症候群の新規疾患関連遺伝子の同定・機能解析については、変異ゼブラフィッシュのホモ化を進めている。また、よりヒトに近い哺乳動物モデルとして、マウスを用いた疾患モデリングを昨年度末から計画していたが、こちらについても動物実験の承認を得ることができ、gene targeting guide RNAの設計、条件検討、受精卵へのインジェクションを実施し、標的遺伝子のキメラ変異体(F0)を得ることに成功した。生殖への影響が危惧される中、系統の維持にやや苦渋しているが、ホモ変異体の解析を進める準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
対象被験者に対し、引き続き網羅的遺伝子解析手法を駆使することによって、先天性心疾患の原因変異を同定することを目指す。対象被験者としては前年度同様、約5家系(15例)が見込まれる。遺伝子解析の成果で新規性の有る事柄については、学術集会や学術論文での報告を積極的に行う。 また、我々が標的としてきた新規疾患関連遺伝子の機能について、動物モデルによる解析を下記の如く進める。ゼブラフィッシュモデルについては、複数の系統のうち一部を、ホモ変異体化することに既に成功しているので、生魚となった時点で順次、交配を繰り返し、安定的に得られるホモ変異体の表現型解析を行う。マウスモデルは現在、CRISPR/CASによってF0キメラ変異体を作出した段階である。キメラ変異体を野生型マウスと交配することで、ヘテロ変異体(F1)を得る。F1ヘテロ変異体を維持・交配しホモ変異体を作出し、心臓形態に主に着目した表現型解析を行う。表現型解析に際しては、遺伝子発現解析、組織染色など病理学的解析、心機能評価(心臓超音波)等を駆使する。 線毛関連遺伝子の機能解析に当たっては、東京大学理学系研究科 武田洋幸教授にご助力頂く。また、マウス作出・系統維持については東京大学医学系研究科 疾患生命工学センターとの共同により実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
東京大学医学系研究科 疾患生命工学センターとの共同により実施した遺伝子ノックアウトマウスの作出費用が当初の予定より低価格で済んだため、その分次年度使用額が生じた。今年度は、当初の予定より多くの症例(5家系15症例)に対してエクソーム解析を行うことで、また新たな候補遺伝子の探索を行う予定である。
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