研究課題/領域番号 |
16K10061
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
土井 庄三郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 寄附講座教授 (80262195)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肺高血圧 / 肺動脈リモデリング / デクスメデトミジン / 平滑筋細胞増殖 / アポトーシス / NF-kB / βarrestin |
研究実績の概要 |
(目的)モノクロタリン(MCT)誘発ラット肺高血圧モデルの肺動脈平滑筋細胞における、DEXの細胞増殖抑制効果およびアポトーシス抵抗性の軽減効果の機序についての検討 (方法)6週齢のオスSDラットを使用し、60mg/kgのMCT皮下投与により作成したPH群、MCT投与後14日目からDEX2μg/kg/hrを持続皮下投与したMCT+DEX群、そして生理食塩水を同じ方法で投与したNC群の3群を用いて、MCT投与後23日目の時点で心臓カテーテル検査による右室圧測定、および右室/(左室+心室中隔)重量比を測定した。引き続いて、これらのラットから肺組織を採取し、免役組織化学染色、mRNA、およびタンパク定量の検討に使用した。 (結果)肺組織をホモジネートし、βarrestinのmRNAおよびタンパクを定量した。βarrestin1のmRNAおよびタンパク発現ともに、NC群に比べてMCT群では有意に減少した。一方で、βarrestin2は、mRNAおよびタンパク発現いずれもNC群とMCT群で有意差を認めなかった。また肺組織のパラフィン包埋切片を用いた免疫組織化学染色において、肺小動脈中膜平滑筋細胞におけるβarrestin1陽性細胞率がMCT群で減少したのに対して、MCT+DEX群では、NC群に類似した陽性細胞率の改善を認めた。 (考察)以上の結果から、MCT誘発ラット肺高血圧モデルにおいて、肺高血圧症の成立機序にβarrestin1が重要な役割を果たしていることが示唆された。またDEXによる肺高血圧改善効果は、βarrestin1を介したシグナル伝達経路が関与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
βarrestin1の発現がMCT群で減少することは、mRNAおよびタンパク発現レベルで確認できたものの、DEXによる治療群でその発現が改善するのかどうかについての結果が安定しないことが、研究計画を遅延させている大きな原因の一つである。結果としてこれまで採取した肺組織のサンプルの保存状態にも言及せざるをえず、改めて動物実験を行わざるをえないこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
in vivoにおける解析がほぼ終了したため、次にin vitroの実験を施行予定である。具体的にはヒト肺動脈平滑筋細胞(hPASMC)を用いて、細胞増殖アッセイおよびsiRNAを用いた実験を行う。 (1)FGF2タンパクによる刺激、およびDEXの前投与による細胞増殖効果(DEXが、FGF2によるhPASMCの細胞増殖の抑制効果を有するかどうか) (2)βarrestinの下流の分子を定量PCRを用いて網羅的に検索する。特にその下流にNF-kBが関与するとされる分子を同定することが望ましい。βarrestin siRNA、あるいはその下流分子のsiRNAを用いることで、NF-kBシグナルの発現がどのように変化するか検討する。 (3)もし上記の実験計画において、有意差を持った結果が得られない場合には、その他のシグナル伝達経路の検索も、合わせて検索を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の実験が当初の予定通りに進まず、動物実験を主に施行することとなった。このため、既存の抗体やプライマーなどの試薬については、追加購入の必要性が生じなかった。次年度は、ヒト肺動脈平滑筋細胞およびその特殊培地の購入や、免疫組織化学染色やウエスタンブロット用の一次抗体、およびプライマー、siRNAなど多数の物品の購入を予定している。また動物実験をさらに行う場合には、新たな実験用動物、飼育費、DEX投与用の浸透圧ポンプ、モノクロタリン薬剤なども購入予定である。
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