ヒト肺動脈性肺高血圧症患者における肺動脈平滑筋細胞において、原子間力顕微鏡を用いて細胞のレオロジー測定を行った。この患者細胞においても、細胞の粘弾性測定は高い再現性をもって、測定可能であった。正常ヒト由来の肺動脈平滑筋細胞における細胞レオロジーと比較してみると、肺動脈性肺高血圧症患者由来肺動脈平滑筋細胞は、高い弾性をもった細胞集団が含まれており、正常と同程度の弾性をもった細胞集団と2群の細胞集団が存在することが明らかとなった。そこで、現在肺動脈性肺高血圧症患者に対して臨床現場で用いられている薬剤であるシルデナフィルを投与すると、正常ヒト由来肺動脈平滑筋細胞では特に有意な反応は見られなかったが、肺高血圧症患者由来肺動脈平滑筋細胞では、高い弾性を持った細胞集団の割合が減少することが明らかとなった。次に、臨床現場で多く用いられているコンビネーション治療の有効性を明らかにするため、系統の異なる2薬剤での併用療法に対する肺動脈平滑筋細胞の反応性を検証した。上記のシルデナフィルに加えて、エンドセリン受容体拮抗薬であるマシテンタンを添加して、原子間力顕微鏡による細胞粘弾性の測定を行った。この実験では、2種類の薬剤による相加効果は認められず、またより低濃度にしたときの有効性も確認できなかった。 本研究により、肺動脈性肺高血圧症患者では、肺動脈平滑筋細胞の細胞レオロジーが通常とは異なり、より粘弾性の高い細胞集団が含まれていること、またそれらは肺血管拡張薬に反応して弾性率の低下が起きることが明らかとなった。
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