研究課題
背景:ネフローゼ症候群(NS)は、腎糸球体濾過障壁構造の破綻により、高度蛋白尿、低アルブミン血症および全身性浮腫を主徴とするで、小児NS有病率は12-16/100,000人である。小児特発性NS(INS)の約90%はステロイド治療で寛解し予後良好であるが、約10%はステロイド抵抗性(SRNS)で、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の病理像を示し、免疫抑制療法で反応不良の場合、約40%が末期腎不全へと進行する。目的:小児SRNSは約30%が糸球体上皮細胞の遺伝子変異が主因とされ、また、INSの発症には、糸球体透過性亢進因子、サイトカイン、自己抗体など多くの病態と相関性を示す液性因子が報告されてきている。このように小児SRNS発症には、遺伝学的機序と免疫学的機序の二つの機序が関与していることから、本研究は、全国レベルで小児特発性SRNSの遺伝子解析と発症に関与する液性因子の解析、およびその作用機序の解明を行い、発症機序に基づく、検査体制の整備を目指すことを目的とする。方法:1)倫理委員会による研究計画承認後、全国医療機関から先天性・乳児NS、およびSRNS症例の臨床検体を収集し、臨床データベースの構築を行う。2)既知SRNS・FSGS責任遺伝子(43-49遺伝子)のエクソンおよびエクソン-イントロン境界領域を対象とした疾患パネルの作製と、次世代シークエンサーを用いたターゲットリシークエンスを行う。結果:平成29年度までに146症例(平成28年度までは62症例)を解析し、46症例で責任遺伝子を同定した(同定率32%)。平成29年度においても、NPHS2遺伝子の変異症例はなく、欧州・米国との人種差を示唆する遺伝子であることを裏打ちする結果となっている。また平成29年度は、寛解導入を一度でも認めた症例は解析から除外したため、同定率の上昇が見られた(平成28年度は26%)。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の62症例に加え、平成29年度は84症例を収集することができ、平成29年度までの収集症例数は合計で146症例となり、変異と付随する臨床データと合わせた統計学的解析も可能となりつつある。これは平成28年度同様、平成29年度も小児腎臓病学会学術集会など、全国医療機関の小児医療従事者が参加する研究発表の場において、研究協力者とともに本研究の目的・意義を紹介し、周知活動を行ってきたことが、症例収集状況が安定していきていると考えられる。
今後、1)さらに解析症例を増やした本邦における責任遺伝子の統計学的調査、2)遺伝子変異と、臨床経過および患者病態との相関解析、3)液性因子の発現解析、などを順次実施していく予定である。責任遺伝子を同定できなかった症例については、臨床経過調査書、およびフォローアップデータを蓄積し、研究協力者とともに全ゲノム解析などの手法を用い、新規責任遺伝子探索研究に備える予定である。平成28年度末までに実施した解析結果の考察から、寛解導入を一度でも認めた症例は、パネル解析における同定が難しいことがわかってきた。この結果を受けて、平成29年度は対象を寛解導入の有無に着目し、絞り込みを実施したところ、同定率の上昇が見られた。今後、さらに臨床経過調査書やフォローアップデータ、家系情報について検討し、遺伝性疾患としてパネル解析の対象となる条件についても、検討していく予定としている。さらに、引き続き責任遺伝子およびその変異についても、これまで疾患症例報告の多い欧州・米国と比較し、アジアの民族特性にも着目して統計解析を行っていく。遺伝子変異と病態との相関解析については、修飾遺伝子やSNPsの有無についても検討し、疾患重症度への関与を考察していく。発症年齢が6ヶ月-1歳以上になると同定率が極端に低下することについては、平成29年度の結果も平成28年度と同様であり、それらの症例については、修飾遺伝子やSNPsの解析と併せて、液性因子の発現についても病態との相関を検討していく必要がある。平成30年度についても、以上を詳細な検討事項として、治療方針を決定する大きな指標となる遺伝子診療と、腎病態や腎予後、そして移植後再発を評価するためのマーカーとなる液性因子発現解析を実施していく予定としている。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 1件)
Nephrology (Carlton)
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/nep.13244.
Kidney Int Rep.
巻: 2(5) ページ: 850-855
10.1016/j.ekir.2017.04.011.
Int J Hematol.
10.1007/s12185-017-2371-5.
Stem Cells Int.
巻: - ページ: -
10.1155/2017/8749751.
Front Pediatr.
10.3389/fped.2017.00194.
Clin Exp Nephrol.
巻: 21(5) ページ: 877-883
10.1007/s10157-016-1352-y.
http://www.med.kobe-u.ac.jp/pediat/