幹細胞表面マーカーSca-1陽性かつ血管内皮細胞表面マーカーCD31陽性細胞が、肺血管幹細胞であるという仮説のもとにマウス成獣肺を用いて以下の研究を行った。 研究初年度、2年目に引き続き、8週齢の成獣マウスを用いて、Sca-1陽性・CD31陽性細胞の時間空間的発現様式の解析を行った。マウスの肺組織切片標本をSca-1およびCD31抗体を用いて二重免疫組織化学染色し、発現パターンの解析を繰り返し行った。Sca-1陽性・CD31陽性細胞は、肺胞壁および肺胞間の血管壁に発現し、肺血管幹細胞の分布として矛盾ないものと考えられた。血管内皮細胞マーカーであるvWFの抗体を用いてさらに共染色を行ったところ、Sca-1陽性・CD31陽性細胞の一部に共発現していた。これらの抗体を用いた蛍光ソーティング(FACS)により、マウス肺組織から分離されたSca-1陽性・CD31陽性細胞は約20%を占め、その他Sca-1陽性・CD31陰性細胞が約10%、 Sca-1陰性・CD31陽性細胞が約1%認められた。単離したSca-1陽性・CD31陽性細胞は培養後、樹枝状の管腔構造へ分化した。管腔形成は血管内皮細胞分化の指標であり、イメージングソフトを用いて、形成された管腔数をカウントし比較した。Sca-1陽性・CD31陽性細胞では培養細胞数に比例して管腔構造の増加が観察されたが、Sca-1陰性・CD31陽性細胞の培養では、さらに多くの管腔構造を認めた。Sca-1は肺血管幹細胞に発現している可能性があるが、マウス成獣肺では、むしろ血管内皮細胞の血管新生を抑制する機能があると考えられた。
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