研究課題
21トリソミーiPS細胞から造血分化誘導を行ったうえで、遺伝子発現変化を解析した。4Mb領域内にコードされる約20個の遺伝子のうち、とくに強い発現変化を示すものとして、RUNX1, ETS2, ERGを同定した。このうちとくに造血に重要な遺伝子であるRUNX1をピックアップし、1アレル分のみの欠失を目指した。RUNX1に対するCRISPR/Cas9システムを作成し、Neoを搭載したドナーDNAとともにNEONシステムをもちいて21トリソミー・GATA1wt iPS細胞へ遺伝子導入した。Neoをもちいたpositive selectionにより得られたコロニーについて、RUNX1座位近傍のマイクロサテライトをもちいたshort tandem repeat (STR)解析を行ったところ、RUNX1が1アレル分だけ欠失したクローンを得ることができた。このクローンをもちいて造血分化誘導を行ってみると、CD235陽性の赤芽球、CD33陽性の骨髄球のいずれもRUNX1欠失前のトリソミー21細胞群より有意に低く、健常児ならびに4Mb欠失iPS細胞とほぼ同じであった。さらにCD34+細胞群に対するCD43+細胞の比率もRUNX1欠失細胞は健常児とほぼ同じであり、このことから21トリソミーによって引き起こされる造血分化亢進作用は、RUNX1のトリソミー単独で起こりうるということが分かった。さらに重要なことに、4Mb領域欠失iPS細胞にレンチウイルスをもちいてRUNX1を強制発現させると、CD43陽性細胞数が増加したことから、このRUNX1のトリソミーが日強言う十分条件であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
ヒトiPS細胞における遺伝子改変は容易ではないが、ゲノム編集をもちいることで可能になる。CRISPRをもちいることでRUNX1における遺伝子改変を行ったところ、1アレルだけに欠失が導入されたクローンを多数得ることができた。
RUNX1以外には、ETS2とERGが候補遺伝子として上がっている。RUNX1のみ、ETS2のみ、RUNX1+ETS2の両方、に1アレル欠失が入ったクローンを作成し、その造血変化を調べたい。次にGATA1短縮型変異と巨核芽球変化を観察するために、21トリソミー+GATA1s iPS細胞に対してRUNX1変異、ETS2変異、ERG変異を導入する必要がある。そのiPS細胞クローンをフィーダー細胞をもちいた巨核芽球系の分化誘導を行うことで、異常な分化誘導が認められるかどうかを確認する必要があるだろう。一方で、これらの遺伝子変化が、GATA1の遺伝子発現に影響をおよぼすのかどうかを調べたい。
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Cell Reports
巻: 15 ページ: 1228-1248
http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2016.04.031