研究実績の概要 |
ダウン症候群では新生児期に一過性骨髄異常増殖症(TAM)と呼ばれる前白血病状態が高率に起こる。われわれのこれまでの研究により21番染色体上で造血異常に強く関与する4Mbの重要領域(Critical Region)を同定することに成功した。本研究ではこれまでの成果をさらに発展させ、4Mb領域内のどの遺伝子が、造血のどのステップに関わるのかについて明らかにすることを目的とする。 昨年度までの研究によって、4Mb領域内にコードされる約20個の遺伝子のうちとくに強い発現変化を示すRUNX1, ETS2, ERGを原因遺伝子の候補としてピックアップしゲノム編集によってRUNX1、ETS2、ERGのそれぞれが1アレル分だけ欠失したiPS細胞、さらにそれらにGATA1変異が導入されたiPS細胞を樹立することができた。そしてそれらのiPS細胞を造血分化誘導し、まずRUNX1が造血亢進作用をもつことを明らかにすることができた。次にETS2とERGについては、巨核芽球系分化を制御しているのだが、いずれもRUNX1との両者のくみあわせによって初めて作用を発揮することが分かった。さらにGATA1変異が存在することで、赤芽球系分化阻害と異常な巨核芽球産生が生じることが分かってきた。 このように我々が見つけた4Mbのダウン症重要領域には、造血分化を制御する重要な遺伝子が多くコードされており、GATA1変異との相互作用によってダウン症特有の造血異常を引き起こすことが分かった。さらに遺伝子発現量との関係について解析を進めたところ、これらの遺伝子が造血分化に係わる遺伝子群に対し、発現量を制御していることが判明した。
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