研究課題
脳室周囲白質軟化症(PVL)は、早産児に特有で比較的軽度の虚血から脳室周囲白質の傷害を引き起こし、脳性麻痺の主な原因となる重篤な疾患である。病態に関してミクログリアの関与が報告されているが、確実な治療法は現在のところない。申請者は、造血作用ホルモンであるエリスロポエチン(EPO)の脳保護作用について研究を続けてきた。特に、虚血低酸素状態においてアストロサイトから分泌されるEPOの作用に注目してきた。これまでの細胞レベルの解析により、ニューロンとグリア間、グリアとグリア間のEPOを介したクロストークが細胞保護および分化に重要であることを明らかにした。本研究では、発達段階での中枢神経においてEPOによるミクログリアの活性化調節作用に注目したPVLに対する新規の脳保護効果について解析する。本年度は、ミクログリアの細胞株であるBV2を使用して、ミクログリアの活性化に対するEPOの効果を中心に解析を行った。その結果、リポポリサッカライド(LPS)によって活性化したミクログリアの形態変化、貪食能、サイトカイン産生は、EPOの投与によって減弱したことを認めた。具体的には、in vitroおよびin vivoにおいてLPS投与によってアメーバ状に巨大化したミクログリアの細胞質がEPOの投与によって縮小した。またin vitroにおいて、蛍光標識したマイクロビースのとりこみを共焦点レーザー顕微鏡で観察したところLPS投与によってミクログリアの細胞内へのマイクロビースの取り込み率は上昇したが、EPOの同時投与によって取り込み率は低下した。さらに、in vitroにおいてLPS投与によってミクログリアの炎症性サイトカインの産生は亢進したが、EPOの投与によってサイトカインの産生は抑制された。以上の結果から、EPOの投与によってミクログリアの活性化は沈静化することを認めた。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度に計画したEPOによるミクログリアの活性化への影響について解析し、その研究成果を論文として発表することができた。
今後は、活性化したミクログリアのニューロンやオリゴデンドロサイトへの影響を解析する計画である。同時に、ミクログリアの活性化の変化を細胞傷害的活性化(M1活性)および細胞保護的活性化(M2活性)の観点から詳細に解析を行う計画である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)
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