研究課題
脳室周囲白質軟化症(PVL)は、早産児脳障害の一つで脳性麻痺の主因であり、未だ有効な治療法は確立されていない。この解決のために治療法を探索する動物モデルが重要である。 特に、中枢神経システムの疾患を対象とする多くの治験研究では、齧歯類をモデル動物とする基礎研究で得られた結果が臨床的には適用不可となる事例が後を絶たず、ヒトが属す霊長類の同モデルの確立は必須であると考えられる。平成29年度から本報告書申請期まで、PVLの前段階として知られる周産期に発症する低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy:HIE)についての霊長類モデルの開発と検証を進めて来た。本施設内に保有するコモンマーモセット(CM)の施設内繁殖系を用いて、CM新生仔の低酸素chamber飼育と一過性脳虚血モデルの条件を、齧歯類モデルの他所研究例を参照し、その試行と生理学的検証を行った。既に我々が発見した候補薬物の投与により中枢神経系への保護作用があるか否かを検討するモデルとして、その再現性と適切な症状改善等の変化を確認し得る定量評価系の開発を目指し、当該年度に施設内繁殖で得ることができた4頭を対象に薬剤未投与の状態で、HIEの関連症状についての神経行動学的検証方法を探索し、検証を行った。乳幼児神経システム発達の臨床医学的マイルストーンとして知られる抗重力運動パターンの出現齢指標に相同とみなしている、本施設の先行研究に基づく霊長類モデルを参照し、その評価系を適用した。今後、本4頭の結果を含み、統計的検討を行い、同モデルの検証を踏まえ、薬理学的検討を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
対象のCM新生仔4頭のうち、2頭を低酸素chamber飼育群、2頭を通常空気chamber飼育群(対照)とした。約30℃に保温し柔らかい吸水性シートをひいた温湿度、風速、酸素濃度計測器モニター付きのchamber室内を約5%、もしくは20.8%酸素濃度に制御を行い、いずれも出生確認後の半日程度以内の個体を30分間滞在させた。滞在中の近赤外式生体血流酸素飽和度SpO2、脈拍数、および、赤外画像センサーによる非接触体表温計測を行った。両群共に、chamber飼育負荷後に、負荷前の酸素飽和度SpO2や脈拍数に戻ることを確認した。同飼育負荷の前後に、抗重力運動評価系計測を行った。同評価系は、四肢把持に基づく抗重力運動において、その把持力の確認と共に、身体運動位置や同運動の認知心理学的な質的定量評価を行うことを目的としている。CM新生仔は生得的な神経作用として、一定の把持力を有し父母胴体に自発的にしがみつくことができる。そこで、父母から分離し6.5cm直径の円柱側面につかまらせ、側面を地面近位に置く位置を初期設定とし、2分間の行動を追跡する先行知見から、出生直後は抗重力方向、すなわち、地面に対して垂直上方を指向する運動傾向が認められている。本評価系を4頭に試行した結果、飼育負荷前後とも、全頭の四肢把持による抗重力運動の達成である円柱上側面到達を認めた。一方、低酸素飼育群は抗重力運動の達成までの時間が長い個体がいた。さらに、空気飼育群の一頭が、垂直下位方向への頭部指向を一部示した。
これらの霊長類低酸素chamber飼育CMモデル検討の結果から、四肢把持に基づく抗重力運動に係わる把持神経機能への影響、さらには、生得的抗重力方向の指向から成長に伴い向重力方向への指向に変わる認知神経機能の発達への影響が考察される。このことは、先行知見において、本CM繁殖系で乳幼仔神経発達マーカーとして仮定を示唆する考察が報告されており、今後の研究において、本検討例数を増やし統計分析を行う予定である。本評価モデルの検証後に、投薬および対照群の同評価系の比較検討を進めたい。
現在までに、CM繁殖数が予想よりも少なかったため、次年度はこの額も併せて検討例数を増やし、統計解析を実施する予定である。
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