研究課題/領域番号 |
16K10111
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
中西 秀彦 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (70528207)
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研究分担者 |
森川 俊一 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (70339000)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 微小血管障害 / 慢性肺疾患 / Angiopoietin-1 |
研究実績の概要 |
早産児では、肺胞および肺胞微小血管の発達が未熟であるため、生後、高濃度酸素投与下に人工呼吸管理を余儀なくされるが、その結果、慢性肺疾患へと進行し、長期的な呼吸循環障害を引き起こすことが知られており、その治療の確立は、早産児の後障害なき救命のために最重要課題である。 本研究目標は、血管新生に重要な役割を果たしているAngiopoietin-1 (Ang-1)の投与が本症の改善に繋がると考え、Ang-1による高濃度酸素暴露後肺胞および肺胞微小血管障害への改善効果を特異抗体を用いた多重免疫染色法、電子顕微鏡による超微形態観察、生化学・分子生物学的手法などを駆使して解析することである。そこで本年度は、まず基礎的知識として、高濃度酸素投与および回復期における、Ang-Tie2シグナルとVEGF-A、Flk-1、Flt-1の動向について、正常発達群、高濃度酸素投与14日群、高濃度酸素暴露後ルームエア回復群の4群間に分け、リアルタイムPCRを用いて遺伝子レベルでの発現を検討した。 Ang-1の遺伝子発現において、高濃度酸素投与群では、正常発達群と比較して発現が減少したものと上昇したものに分かれたのに対し、回復群では大きく上昇した。Ang-2は、高濃度酸素投与群では、他群と比較して大きく上昇していた。Tie1およびTie2受容体における遺伝子発現は、いずれも高濃度酸素投与群では他群と比較して大きく低下していた。VEGF-A、Flk-1、Flt-1の遺伝子発現では、いずれも4群間に差を認めなかった。Ang-1の遺伝子発現が、高濃度酸素投与14日間投与後に2相性の変化を認めた結果については、より詳細な発現情報を確認するため、今回のようなワンポイントだけでなく、暴露前、暴露後7日、10日、14日といった時間的推移を見る必要があると思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね予定通り進んでいるが、Ang-1の遺伝子発現が、高濃度酸素投与14日間後に2相性の変化を認めた結果をもって、より詳細な発現情報を確認するため、ワンポイントだけでなく、暴露前、暴露後7日、10日、14日といった時間的推移を他の関連遺伝子でも確認する必要があると思われ、その追加実験が必要と考える。実験対象として新生仔マウスを用いているが、モデル肺を得るのに3週間の期間が必要であること、また母マウスのNursing Careも個体数獲得のために重要な要素であるため、技術面、実験動物飼育の環境面での改善も今後の検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
1.各群におけるAng-1-Tie2シグナルの生化学・分子生物学的手法による動向の解析: 28年度に引き続きAng-1の投与効果を立証する上で、高濃度酸素投与による障害および回復過程におけるAng-1-シグナルの動向を評価することが必要である。そこで、Ang-1-Tie2シグナルとVEGF-A、Flk-1、Flt-1の動向を引き続き遺伝子レベルで解析する。その際には、高濃度酸素暴露前、暴露後7日、10日、14日といった時間的推移も考慮して発現経過を検討する。Ang-1、Ang-2、Tie2およびシグナル蛋白であるPhospho-Aktに対する特異抗体を用いたウエスタンブロット法を用いて、各群におけるこれら発現を蛋白レベルでも明らかにする。 高濃度酸素暴露およびその回復期におけるAng-1-Tie2シグナルとVEGF-A、Flk-1、Flt-1の発現に臓器特異性があるのか、肺のみならず、肝臓、腎臓、脾臓、心臓を用いて検討する。
2.Ang-1投与による高濃度酸素障害後の肺胞構造に対する効果の形態学的解析: 正常発達群、高濃度酸素投与群、高濃度酸素暴露後ルームエア回復群に加え、回復期再生モデルとして、Ang-1を酸素離脱直後(日齢14)と日齢17に腹腔内投与することにより作成する。各群の肺組織切片から均等にサンプリングを行い、客観的に肺胞数、肺胞面積、肺胞中隔数を評価する。また超微形態観察を、内皮細胞、基底膜、上皮細胞から構成される血液空気関門や、その他肺胞Ⅱ型上皮細胞なども合わせて、これらの細胞内微小器官の変化にも注目しながら解析し、肺胞壁に存在するどの細胞が障害を受けたのか、血管を構築する細胞間のネットワークがどのように変化を受けたのかを、細胞内小器官を含めた微細構造レベルで解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度繰越金の発生に関しては、必要でなかったわけではなく、次年度における必要物品およびその他での使用の際に必要となることを想定したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究では、電子顕微鏡を用いた微細構造レベルの解析が重要な位置を占める。また検索の過程においては、肺胞壁を構成する細胞群を明らかにするために、それらの可視化のための抗体をはじめとした試薬類が必須である。具体的な消耗品費としては、実験用動物( ICRマウス他)の購入費および飼育費、試薬類には、培養用血清、免疫染色用の抗体、分子組織化学用の制限酵素、プローブ標識キット、標的遺伝子プライマー、PCR用試薬、電子顕微鏡用には、樹脂包埋キット、超薄用ダイヤモンドナイフ、画像解析用のコンピューター関連品、また、プラスティック器具類、論文別刷代などの諸費用が含まれる。 その他、学外研究者との情報交換のための旅費、ならびに成果発表のための学会参加費などの旅費( 国内外を含む)、印刷費( カラー印刷)、論文投稿費用などが経費に含まれる。
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