ヒト胎盤細胞のミトコンドリアで大量に産生されるプロゲステロンは、妊娠維持に働く極めて重要なステロイドホルモンである。プロゲステロンを大量に産生するには、その原料となるコレステロールを大規模かつ効率よくミトコンドリアへ輸送する必要があるものの、その輸送分子機構についてほとんど分かっていない。研究代表者は、胎盤細胞においてエンドソームとミトコンドリアが接触することを発見した。このエンドソームに存在するコレステロール結合タンパク質MLN64を欠くとプロゲステロンを産生できないことから、本研究では、胎盤細胞におけるエンドソーム-ミトコンドリア間の接触による新規コレステロール輸送の分子機構解明を目指した。 本研究では,後期エンドソームとミトコンドリアとの間の接近とその構造の詳細を明らかにする目的で,胎盤由来のJEG3培養細胞を用いて免疫染色後に3D電顕を行う新規の方法の考案に取り組み,実際に観察した。すると,およそ20nmの極めて接近した距離でLamp1標識後期エンドソームとミトコンドリアが接して存在していたことを立体的に観察できた。しかも,この近接した領域の空間を極めて細い柱状の構造体がいくつも直立していたことも判明し,この柱様の構造体が両オルガネラの距離を保つことが示唆された。MLN64をノックダウンし発現抑制されたJEG3細胞では,100nmほどに両オルガネラの距離が離れてしまい,柱様の構造体がほとんど観察できなかった。一方,コレステロール輸送の阻害剤であるU18666Aを処理したJEG3細胞では,両オルガネラ間の距離がおよそ300nm以上に広がることから,MLN64は後期エンドソームとミトコンドリアの間の距離維持に重要というよりは,柱様の構造体形成に重要であるという結論に達した。この結果は,近年多く報告されているオルガネラ接触の新たなメカニズムを提唱できると考えている。
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