研究課題/領域番号 |
16K10116
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研究機関 | 八戸工業高等専門学校 |
研究代表者 |
森 大祐 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (50451539)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 先天性心疾患 / 出征前診断 / 血行力学 / 計算生体力学 / 胎児循環予測 / 新生児循環予測 |
研究実績の概要 |
本研究では、胎児心エコー検査による先天性心疾患の出生前診断の高精度化とその周産期医療への有効性向上のために、胎児・新生児の心大血管における血流のコンピュータシミュレーションを展開する。研究の初期段階として、まず最初に正常新生児を出発点として、その後、正常胎児、各種心疾患へと段階的にターゲットを移して、胎児・新生児の心大血管基本モデル構築とそれらを用いた血流解析を展開する計画である。この内、平成28年度は、正常新生児をターゲットとした心大血管モデルの構築とその血流解析を実施した。モデル構築は、新生児の胸部医用画像は得られなかったため、代替的に幼児の胸部医用画像を基にして行った。肩部から腹部までを含む断層画像を重ねた3次元再構成画像に対して、各種の3次元画像処理を施し大動脈血流部のみを領域抽出しコンピュータシミュレーション用の実形状モデルを作成した。それを新生児の平均的寸法に修正し正常新生児大動脈モデルとした。また同時に、肺動脈モデルも構築した。これらのモデルに対して左心室ならびに右心室からの生理学的な血液の流入条件等を適用しモデル内部の血流解析を実施し、出生後の生理学的流動現象について把握した。ここでは、大動脈と肺動脈の血流はそれぞれ独立した現象として個別に解析したが、次の研究段階として、正常胎児心大血管モデルの構築に向け、胎児特有の動脈管を大動脈モデルと肺動脈モデルとの間に設け、互いに影響し合う一体型モデルを構築する予定であり、本年度はそのベースとなる基本モデルの準備ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の初期段階として、まず最初に正常新生児を出発点として、その後、正常胎児、各種心疾患へと段階的にターゲットを移して、胎児・新生児の心大血管基本モデル構築とそれらを用いた血流解析を展開する計画である。この内、平成28年度は、正常新生児をターゲットとした心大血管モデルの構築とその血流解析を実施した。新生児の胸部医用画像は得られなかったため、代替的に幼児の胸部医用画像を基にしたが、それを新生児の平均的寸法に修正することにより、正常新生児における大動脈モデルと肺動脈モデルを構築し、その内部の血流シミュレーションを実施し、当初の目標であった正常新生児心大血管モデル構築・血流解析・生理学的流動現象の把握をおおむね達成した。また、次の研究目標となる正常胎児心大血管モデルの構築では、胎児特有の動脈管を大動脈モデルと肺動脈モデルとの間に設け、それらの血流が互いに影響し合う一体型モデルを構築する予定であるが、本年度はそのベースとなる基本モデルの準備ができたと言え、おおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度構築済みの正常新生児モデルをベースとして、胎児特有の卵円孔と動脈管を大動脈モデルと肺動脈モデルとの間に設け、大動脈と肺動脈における現象が互いに影響し合う一体型モデルを構築する。大動脈と肺動脈の流れが直接的に交通する状態を再現する解析は、成人を対象としてきたこれまでの研究ではなされておらず新たにその手法を検討する。具体的には、大動脈血流と肺動脈血流とが解剖生理学的に矛盾することなく連動する現象を再現し、未熟な肺を迂回する胎児特有の循環を模擬する境界条件(肺血管抵抗、肺を経由する血流量の設定など)を検討する。構築したモデルと手法を用いて血流を解析し、出生前の生理学的流動現象を把握する。また、それと並行して、正常胎児モデルをベースとして、各種心疾患モデルを構築する。各種心疾患を解剖学的疾患と機能的疾患とに大別しモデル化に取り組む。解剖学的疾患に分類する疾患は、例えば、大血管転位、大動脈狭窄、総動脈幹などの流出路奇形で、それらの形状的特徴をモデル化する。機能的疾患に分類する疾患としては、期外収縮・頻脈・徐脈などの不整脈、および、三尖弁閉鎖・僧帽弁狭窄・大動脈弁狭窄などの弁部に由来する疾患を考え、前者は四腔の収縮・拡張周期などを変化させて再現し、後者は弁の開閉様式を工夫し、それらのモデル化を検討する。それぞれのモデルについて血流を解析し、前述の正常胎児モデルで把握した生理学的流動現象との比較から、各種疾患における病態生理学的流動現象の特異性と胎児心エコー検査画像に及ぼす影響を調査し出生前診断の精度向上について考察し、新診断手法の提案も探る。臨床ではいくつもの疾患が複合的に合併した症例が多くあり、臨床的に重要な合併症例についてもいくつかのモデルの組み合わせにより解析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の使用計画では、流体解析等関連ソフトウェアとして300千円を計上していた。流体解析を実施するにあたり、商用ソフトウェアの使用と、それに代替するものとしてフリーかつオープンなソフトウェアの使用ないし自作コードの使用を検討した。そこで、商用ソフトウェアの使用に先立ち、フリーオープンソフトウェアの使用および自作コードの使用を試行した結果、本研究課題における解析において十分機能することとを確認した。また、今後の研究過程においても、より柔軟性のあるフリーオープンソフトウェアと自作コードの併用の方が、商用ソフトの使用よりも開発速度の観点からも有利であると判断した。このことから、商用ソフトの使用を保留した結果、当該の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題では、今後、平成29年度の計画では、左心系モデルと右心系モデルとが影響し合う統合的なより大規模な解析を実施する予定である。さらに、平成30年度の計画では、出生前後の循環切替や卵円孔・動脈管閉鎖の過渡的変化を対象としてより時間的スパンの長い解析を予定している。また、種々の疾患をターゲットとして計算対象が多数にわたる。したがって、今回生じた次年度使用額については、係る計算機環境の高性能化を図るための計算機構成部品に充当する計画である。
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