本研究では、胎児心エコー検査による先天性心疾患の出生前診断の高精度化とその周産期医療への有効性向上のために、胎児・新生児の心大血管における血流のコンピュータシミュレーションを展開した。本研究期間全体を通じて、まず最初に正常新生児を出発点として開始し、その後、正常胎児、各種心疾患へと段階的にターゲットを移して、胎児・新生児の心大血管基本モデル構築とそれらを用いた血流解析を試みてきた。最終年度である令和元年度は、前年度に引き続き、大動脈縮窄症を有する幼児の術前・術後の胸部医用画像を基にした実形状モデルをベースとして、より広範なモデル化と解析に取り組んだ。大動脈弓形状や、狭窄の程度等をパラメータとして段階的に変化させ、それらの組み合わせと血行力学的パラメータの相関から大動脈縮窄に対する手術適用指標を検討し本研究課題で確立した手法の有効性を検証した。 また、これまでの研究成果を統合し将来的な臨床応用を志向したシミュレータのプロトタイプシステムの構築を行った。シミュレータは臨床医用画像の3次元ボリュームレンダリング機能を持ち、ボリュームレンダリング像と基本モデルとを同時描出し、イメージベースト個別患者モデルを構築できるようにした。また、機能的疾患(不整脈や弁に由来する疾患)を境界条件として扱い設定可能なものとした。本研究課題で確立した手法、および、シミュレータを各種心疾患に適用した血流動態予測解析を、臨床における先天性心疾患の診断と結びつけることができれば、その高精度化と有効性向上を実現し、新たな診断手法・治療技術などの創出につながると期待される。
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