研究課題
野生型マウス背部皮膚への創傷部位における病変部と周囲皮膚の毛周期への影響を観察している。創傷と毛周期の関係の詳細を解明するために、創傷の程度として、毛乳頭が創傷の真皮内に残るような微小創傷を作成した。この微小創傷においては、毛乳頭が真皮側に残されていることを、アルカリフォスファターゼの染色によって評価し、全ての毛乳頭は創傷部位の真皮に残存していることが判明した。この方法によって微小創傷を作成した際には、その後も問題なく毛包は成長し、毛周期のサイクルは回る。しかしながら、周囲の正常皮膚と比較した場合には毛周期は1ステップごと遅れ、周囲の正常部位が成長期のときは病変部が休止期、退行期のときには成長期、休止期のときには退行期に至ることをHE染色による組織学的観察ならびにパンサイトケラチンの染色によって確認した。創傷部位の毛包においてはBrdUの取り込みで評価される増殖細胞が多数見られた。毛包の成長や維持において重要なWntシグナリングを可視化するレポーターマウスである、ins-TOPGALマウス(理化学研究所RIKEN BRCより入手;Wntシグナリングの活性化部位にLacZが発現する)に同様な微小創傷を作成したところ、病変部の毛包部位に強くLacZの発現(ベータガラクトシダーゼの染色)を認めた。同様に、Wntシグナリングが活性化していることを示すLEF1陽性細胞も毛包に多数認めた。これらのことから、Wntシグナリングが微小創傷部位における毛包の成長にも寄与していると示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画予定のとおり、野生型マウスの微小創傷部位に関して経時的に毛周期を観察し、研究実績の概要に記したとおりの内容を得ることができた。また、微小創傷部位の毛包上皮細胞における増殖能の評価や、Wntレポーターマウスの結果でも興味深い知見が得られていることから、最終ゴールである瘢痕型脱毛の形成メカニズム解明へと着実に進んでいることを示すものと考える。
1)微小創傷部位の炎症の毛周期への影響の検討微小創傷部位とその周囲の炎症細胞の染色によって、浸潤している免疫細胞を同定する。特にLy6G陽性の好中球、F4/80陽性のマクロファージ、CD3陽性のT細胞について評価を行う。2)ヒト瘢痕型脱毛症患者検体の解析マウスモデルの結果で見られた毛周期の変化、Wntシグナリングの活性化、炎症細胞の浸潤についてヒト瘢痕型脱毛症患者検体を用いて組織学的に検討する。特に、全身性/円板状エリテマトーデス患者や表皮水疱症患者検体を解析する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件)
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