掌蹠膿疱症(PPP)は、掌蹠の無菌性膿疱を主体とし、寛解・増悪を繰り返すうちに鱗屑を伴う紅斑性局面を来す難治性の慢性炎症性皮膚疾患である。病因のひとつに喫煙が指摘されており、罹患者の喫煙率は高いが、その機序は十分に検討されていない。本研究では、煙草中のニコチンが表皮もしくは汗腺・汗管に発現するニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)を活性化することで、表皮の恒常性や炎症性サイトカインの産生に影響し、PPPの病態形成もしくは疾患の増悪に関与する可能性を考えた。 培養表皮ケラチノサイト(NHEKs)と汗腺細胞(NGL-SG2)をニコチンで96時間刺激し、α3nAChRおよびα7nAChRの発現に変化がみられるか解析を行ったところ、ニコチン刺激による受容体の発現への影響は見られなかった。NHEKsとNCL-SG3をニコチン10nM、100nMで96時間刺激したところ、NHEKsにおけるタイトジャンクション構成分子、コルネオデスモシン構成分子、抗菌ペプチドの発現が有意に低下した。さらに、KLKsの発現も低下したが、セリンプロテアーゼインヒビターLEKTIの発現は上昇しており、タンパク分解酵素の活性に変化を生じている可能性が考えられた。一方、NCL-SG3では、変化がみられないことがわかった。以上から、ニコチン長期暴露は、表皮恒常性を変化させるが、汗腺細胞には影響しないと考えた。 NHEKsをニコチンで72時間刺激したのちにTNF-αを添加したところ、ニコチン前処理群では、有意にIL-6、IL-8の発現が上昇することがわかった。NCL-SG3では、培養上清にのみサイトカインの上昇を認めた。このことから、長期ニコチン暴露は表皮ケラチノサイトにおけるTNF-α誘導性炎症を増強させると考えた。一方、汗腺細胞では、サイトカインの産生を誘導しないが、放出を促進する可能性が示唆された。
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