研究課題
本研究計画では、発毛シグナルとして近年注目されているWntシグナルに着目し、『発毛の制御』を実現することを目標とする。初年度(平成28年度)は、まず発毛に関わるWntシグナルの発現を経時的に精査した。胎児および生後マウスの皮膚よりmRNAを抽出し、real time RT-PCRによりリガンド(Wnt)およびレセプター(Frizzled)について発現解析を行った。発現しているWntおよびFrizzledのサブファミリーのいくつかは、Reddyらが報告した成績と一致した(Mech Dev. 2001、J Invest Dermatol. 2004)。しかし、それ以外のWntおよびFrizzledのファミリーが発現していることを新たに発見したため、これまでの報告とは異なるWnt/Frizzledファミリーが発毛に関与していることが示唆された。次に、新たなWnt/Frizzledファミリーを含め、発毛に関わるWntシグナルが発毛プロセスのどの段階(発現時期)で、どこに発現しているのか(発現部位)を、皮膚組織を用いて精査した。胎生期、生後、成獣マウスの各時期における皮膚を免疫組織化学的に解析したところ、Reddyらの報告と一致する部位も存在した。しかしながら、毛包組織における広い部位(表皮から皮下組織)での発現を詳細に調べた結果、Wnt/Frizzled各種ファミリーの複雑な発現パターンが存在することが明らかとなった。次年度(平成29年度)、本年度の成績より得られた“発毛に特に重要なWnt/Frizzledファミリー”を選出し、発毛の原料となる上皮・間葉系細胞を用いることでin vitro培養系での影響を精査し、発毛制御を実証可能な実験に着手する予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に基づき、期待した実験成果が得られており、学会発表および論文発表での成果報告を行っているため。
次年度(平成29年度)では、発毛に特に重要なWnt/Frizzledファミリーを用いてin vitro細胞培養系での影響を精査する。具体的には、平成28年度に得られた結果をもとに、発毛に特に重要なWnt/Frizzledファミリーに着目し、発毛の原料となる上皮系細胞(毛包上皮幹細胞:EpSCs)と間葉系細胞(毛乳頭細胞:DPCs)を用いてin vitro培養系での評価を行う。経時的な細胞形態変化と細胞増殖などの動態解析や、分化・未分化マーカー等による遺伝子・タンパク質レベルでの発現変化を解析する。上皮系細胞は予め蛍光色素をパルスすることで、終始細胞をモニターし、間葉系細胞との共培養により、Wntの発現を制御操作し、リアルタイムで発毛初期の影響(分化・分布など)を解析する。新生する毛包の変化は、固定後、連続切片を作成し、H&E染色や特異的抗体を用いた組織化学的解析により評価する。更にEpSCsあるいはDPCs内での遺伝子発現変化を調べるため、各種細胞をフローサイトメーター(FACS)あるいはレーザーマイクロダイセクション(LMD)により分取し、real time PCRおよびDNA array等により解析することで、発毛における細胞内現象を解明し、発毛制御の基礎的データを構築する。
本研究計画の2年目(平成29年度)において、発毛に関わる種々の遺伝子変化を網羅的に解析する目的で、DNA array等、受託研究費の発生が予想された。本年度(平成28年度)は、成獣マウス皮膚・毛包の正常発生過程における遺伝子・タンパク質発現を解析するため、消耗品(各種緩衝液やプラスチックシャーレ等)の購入に研究費を使用した。その際、必要最小限の量を計画的に購入することで、繰越金を捻出し、来年度に備えた。
次年度は繰越金を合算して、DNA array等を用いた更なる解析を行いつつ、初年度に購入した消耗品を継続して使用することや、実験に必要な物品を計画的に購入することで、研究を遂行する。
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