毛髪の形成機構と貧毛症の発症機序の解明に向けて、培養細胞にヒトのヘアケラチンK85および貧毛症の変異をもつK85変異体をそれぞれK35と共発現させることにより、ヘアケラチンの中間径フィラメント(IF)形成特性とK85変異の影響を解明することが本研究の目的である。 これまでに、K35、K85、貧毛症の変異をもつ2種類のK85変異体の遺伝子をそれぞれ、発現ベクターであるpDsRed-Monomer-N1とpAcGFP1-Hyg-N1に連結した。対照として、マウスのサイトケラチンmK18とmK8もそれぞれ上記ベクターに連結した。 最終年度は、これら遺伝子をヒト培養細胞であるSW-13細胞に導入し、IF形成能等について蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡を用いて解析した。その結果、野生型K85はK35と重合して、通常のIFよりも短くて太いフィラメントを核近傍の細胞質に形成した。この結果は、mK18とmK8が重合して、細胞質全体に広がる長いIFを形成することとは異なる。貧毛症変異のうち、K85のヘッドドメインに変異をもつ変異体をK35とともに発現したところ、変異の影響は観察されず、野生型と同様のフィラメントを形成した。しかし、テイルドメインに変異をもつ変異体では、K35と重合はするがフィラメントを形成できず、凝集体のみを細胞質に生じた。 今回の結果は、我々が以前K85とK35を試験管内で重合させると、通常の長いIFではなく短いIFの束を形成したことと一致する。このK85-K35ペアの特性はマクロフィブリル(毛髪に見られるIFの巨大な束)の形成上、重要な意義をもつことが考えられる。テイルドメイン変異型K85はフィラメント形成能を消失しており、そのことが貧毛症の発症原因であると考えられる。一方、ヘッドドメイン変異型K85はフィラメント形成能を維持しており、なぜテイルドメイン変異型よりも重篤な貧毛症を引き起こすのか、その理由は不明である。
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