研究課題
2013年、ロドデノールを含む美白剤による「白斑」被害が大きな社会問題となった。白斑とは皮膚色が白く抜ける皮膚疾患である。白斑を発症した皮膚では、メラニン量およびメラニン産生細胞(メラノサイト)の減少が確認されている。また、白斑被害を訴えた患者の中には、皮膚メラニンが増加する「黒皮症」の発症も報告されている。白斑を発症した人は、当該美白剤を使用した人全体の約2%であることから、特定の化学物質に対してより白斑を発症しやすい人が存在することが示唆される。従って、化学物質による白斑被害を未然に防ぐには、白斑を発症しやすい人を対象とした、より高感度に化学物質による白斑・黒皮症毒性を評価できる技術が求められる。そこで、本研究では、当研究室にて開発されたヒト類似皮膚を持つオリジナルモデルマウスを用い、化学物質による白斑・黒皮症毒性を高感度に感知できる評価法を開発することを目的とした。本年度は、昨年度の成果であるオリジナルモデルマウスにおけるロドデノールによる白斑および黒皮症の誘導について、再現効率を上げる試験法の開発を行った。さらに、皮膚表面の皮脂による反射を抑え、ロドデノール投与後の白斑および黒皮症の様態を明瞭に撮影する技術を確立した。これにより、皮脂反射によるバイアスを除いた皮膚色の評価に成功した。さらに、本研究により得られた成果の一部は、科学技術振興機構(JST)より海外特許出願(PTC出願)のための支援を頂くに至り、一定の外部評価を得ることができたと言える。
1: 当初の計画以上に進展している
ロドデノールにより誘導された白斑および黒皮症の再現性試験を行った。投与濃度および投与回数の検討を行い、より高効率でかつ短時間に評価できる方法を確立した。途中、モデルマウスの交配がうまくいかない、あるいは、妊娠・出産はするが、産仔の生育が悪いなどの状態が続き、再現性試験の開始が若干遅れた。しかし、問題は解決し試験を再開、一定の再現性も得られている。組織学的な解析も並行して進めている。1年目の研究計画が、当初の予定を上回って進んでいたため、今回の交配不具合による再現性試験の遅れは、研究全体の進行には影響していない。また、ディフューザーや偏光板を撮影装置に導入し、皮膚表面の皮脂による反射を抑え、ロドデノール投与後の白斑および黒皮症の様態を明瞭に撮影する技術を確立した。さらに、本研究によって得られたモデルマウスを用いた白斑・黒皮症毒性の評価技術の一部が、科学技術振興機構(JST)による海外特許出願(PTC出願)支援に選出されたことは、当初の計画を上回る進捗である。平成29年10月より、勤務先を愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所に移したが、本モデルマウスは、名古屋大学にて継続的に維持管理している。さらに、平成30年度は、新たに名古屋大学の研究者を研究分担者に追加申請し、研究補助員を雇用するなど、今後の研究計画を円滑に進めるための体制を作った。
平成30年度は、モデルマウスに発症した白斑・黒皮症の組織学的解析を進めるとともに、in vitroにおける白斑毒性の評価系の構築を行う。これまでに構築したin vivo試験系と同様、高感度に白斑・黒皮症毒性を検知できるin vitro試験系を得るため、モデルマウスから単離したメラノサイトを用いる。細胞にロドデノール等を添加したときの、メラノサイト生存関連因子等の発現を調べる。これらにより、in vitro試験系を第一次スクリーニング、in vivo試験系を第二次スクリーニンングとした細胞レベルから動物レベルまでの毒性試験系の基盤をつくる。また、本試験による成果を学術論文として公表することを目指す。
途中、産仔の生育が悪くなるなど、モデルマウスの安定生産に問題が発生した。その分のマウス維持管理費用と毒性評価に使用する予定であった費用を本年度に使用できなかった。すでに、産仔の生育がうまくいく条件を見つけており、来年度は、この条件にて安定的にモデルマウスを飼育し、再現性試験を再開する予定である。次年度に繰り越した使用額は、再現性試験の再開にともなうマウスの維持費と解析費用、および、再現性試験の補助を行う研究補助員の謝金として使用する計画である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 備考 (1件)
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