研究課題/領域番号 |
16K10167
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
金城 貴夫 琉球大学, 医学部, 教授 (30284962)
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研究分担者 |
常木 雅之 昭和大学, 歯学部, 助教 (40714944)
高橋 健造 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80291425)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カポジ肉腫 / KSHV / K1遺伝子 |
研究実績の概要 |
我々はAIDS関連型カポジ肉腫と古典型カポジ肉腫の臨床像の違いに着目し、そのメカニズムの解明が臨床応用可能と考え研究を進めている。AIDS関連型カポジ肉腫はAIDS患者の日和見症候群の一つで病変は皮膚にとどまらず内臓にも発生し進行が速い。一方、古典型カポジ肉腫は四肢の皮膚に発生するが内臓病変はみられない。さらに古典型カポジ肉腫は進行が緩やかで自然消退する事もある。腫瘍の自然消退のメカニズムが明らかになれば、副作用の少ない新たな抗腫瘍治療薬の開発に繋がる可能性がある。 我々は両者の臨床像の違いを解明するため、カポジ肉腫の原因となるKaposi’s sarcoma associated herpesvirus (KSHV)の遺伝子を比較したところ、AIDS関連型と古典型カポジ肉腫由来のKSHVはK1遺伝子に違いがある事を発見した。これを基に本研究ではAIDS関連型及び古典型カポジ肉腫由来のK1遺伝子を初代培養細胞に導入し、形質転換能(癌細胞としての特性)と細胞老化誘導能を比較検討した。 これまでの検討でAIDS関連型K1は古典型K1より形質転換能がはるかに強く、対照的に古典型K1はAIDS関連型K1より細胞老化誘導能が強いという結果が得られている。 上記現象を解明するためAIDS関連型K1と古典型K1遺伝子の細胞内シグナル伝達を比較し、AIDS関連型K1では古典型K1よりimmunoreceptortyrosin-based activation motif (ITAM)活性が高い事を見出した。AIDS関連型K1遺伝子の形質転換能は高いITAM活性と相関する事が明らかになった。 我々はさらにAIDS関連型K1が古典型K1遺伝子より何故ITAM活性が高いか解明するため新たな実験系を組み検討する予定である。これにより古典型カポジ肉腫の自然消退のメカニズムが明らかにされる事が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はマウス初代培養線維芽細胞、ヒト初代培養線維芽細胞とヒト臍帯静脈血管内皮細胞にAIDS関連型K1遺伝子または古典型K1遺伝子を導入し、形質転換能と細胞老化の誘導を比較した。 AIDS関連型K1発現細胞は古典型K1発現細胞よりも増殖能と足場非依存性増殖能が高く、実際にAIDS関連型K1発現細胞または古典型K1発現細胞をヌードマウスに接種するとAIDS関連型K1のみに腫瘍形成がみられた。 AIDS関連型K1発現細胞と古典型K1発現細胞はいずれも同程度に細胞内活性酸素とDNA damageが増加しているが、酸化ストレス条件下では古典型K1はAIDS関連型K1より容易にアポトーシスに陥る事が示された。細胞老化の頻度を検討すると通常培養条件下ではAIDS関連型K1と古典型K1で差が無いが、酸化ストレス条件下では古典型K1はAIDS関連型K1より細胞老化を強く誘導した。 AIDS関連型K1は古典型K1より強い形質転換能を示し、一方古典型K1はAIDS関連型K1よりも細胞老化を強く誘導していた。両者における上記特性の違いを明らかにするため、KI遺伝子の細胞内シグナル伝達能を比較検討した。K1は細胞内ドメインimmunoreceptortyrosin-based activation motif (ITAM)を介して様々なシグナル経路を活性化する。AIDS関連型K1は古典型K1よりも高いITAM活性を示し、形質転換能との関連がみられた。 K1遺伝子は細胞外ドメインによりoligomerを形成する事でITAMを活性化する。AIDS関連型K1と古典型K1のアミノ酸配列の違いは細胞外ドメインにあり、AIDS関連型K1と古典型K1ではoligomer形成能が違う事が想定される。今後はそれぞれのoligomer形成能を比較し、古典型カポジ肉腫の自然消退のメカニズムの全容の解明を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
古典型K1とAIDS関連型K1の形質転換能の違いをヒトとマウスの初代培養細胞を用いてin vitroで検討してきた。これまで得られたデータからはAIDS関連型K1遺伝子は古典型K1遺伝子より形質転換能が強く、一方古典型K1遺伝子は細胞老化を強く誘導する事が明らかになった。従ってK1遺伝子の機能の違いがAIDS関連型カポジ肉腫と古典型カポジ肉腫の臨床像の違いを反映すると考えられる。本研究のそもそもの目的は古典型カポジ肉腫の自然消退のメカニズムの解明から新たな抗腫瘍治療戦略を見出す事であり、そのためにはAIDS関連型K1と古典型K1の細胞内シグナル伝達活性の違いを見出さなくてはならない。本研究ではAIDS関連型K1は細胞内ドメインのITAM活性が古典型K1より強い事を見出した。K1遺伝子が細胞外ドメインを用いてoligomerを形成しITAMモチーフを活性化する事、AIDS関連型K1遺伝子と古典型K1遺伝子は膜貫通ドメインと細胞内ドメインは相同だが細胞外ドメインのアミノ酸配列が異なる事から、AIDS関連型K1と古典型K1遺伝子のITAM活性の違いはoligomer形成能の違いにあると考えている。今年度は免疫沈降などにより両者のoligomer形成能の違いを証明し、AIDS関連型K1遺伝子と古典型K1遺伝子の機能の違いの全貌を解明したい。 本研究は今年度が最終年度となるが今まで得られたK1遺伝子機能の違いに関する知見を抗腫瘍治療に結び付けるべく、ITAM活性を標的とした治療モデルを癌細胞株を用いた検討で提案したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の一人が平成28年度と平成29年度に所属機関を異動しており,研究費移管の手続き等により,計画通りの執行ができなかった。それ故15万円の研究費の未使用額が生じた。 残りの16,476円については,物品購入の際,当初の試算より安価だったため,残金が生じた。この16,476円は,次年度,分子生物学実験に必要な試薬の購入に使用する予定である。
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