研究課題
我々はこれまでアトピー性皮膚炎(AD)や乾癬患者ではperiostin(PO)の発現が皮膚で亢進しており、血清PO値と疾患重症度との相関がみられること、これらの疾患ではかゆみの皮膚の神経軸索ガイダンス分子(セマフォリン3A:Sema3A、神経成長因子:NGF)の発現異常が見られることを報告してきた。本研究ではそう痒性皮膚疾患におけるPOの発現異常と神経軸索ガイダンス分子および各種サイトカインの産生異常との関係について明らかにすることを目指す。さらに、これまでマウスの乾燥皮膚のかゆみに有効であることを報告してきたコラーゲントリペプチド(CTP)を用いて、かゆみおよびADの新規治療薬の開発をめざす。また、ADの新規バイオマーカーとして、表皮ケラチノサイトが産生するSCCA2の意義を報告した(BJD 2017年)が、さらにその臨床的意義を詳細に確認する。初年度は下記の計画をたて、予定通り遂行した。すなわち、1)培養細胞や末梢血細胞を用いてPOが神経軸索ガイダンス分子や種々のサイトカイン産生に及ぼす影響についてmRNAレベルおよびタンパクレベルで明らかにする。2)培養ケラチノサイトや線維芽細胞、末梢血細胞を用いてCTPによるケラチノサイトの神経軸索ガイダンス分子やサイトカイン産生促進効果を明らかにし、その機序を解明する。さらにAD患者に12週間投与し、その効果をみる。3)ADおよびその他のそう痒性皮膚疾患患者の各種臨床データーと血清SCCA2との関連をみることにより慢性化のバイオマーカーとしてSCCA2の有用性を明らかにする。これらの研究は順調に進行しており再現性も含めてさらに検討を重ねている。
2: おおむね順調に進展している
1)POの慢性そう痒性皮膚疾患への関与について.1.培養ヒト線維芽細胞およびケラチノサイトをリコンビナントPO単独またはPOとTEN-αで共刺激し、Sema3A、NGF、各種サイトカインの発現の変化をタンパクレベルやmRNAレベルで確認した。また、培養液中のこれらのタンパク量をELISA法で測定した。結果はいずれの細胞もPO添加でPO無添加のコントロール群と比較していくつかのサイトカインの発現亢進がみられた。ただし、PO単独刺激とTEN-αとの共刺激とで結果が異なるため、現在実験を追加してその意義を検討中である。2.POが末梢血単核細胞に直接作用して炎症性サイトカイン産生に影響を与えるかをAD患者と健常人の末梢血にPO単独またはPOとLPCとの共刺激を加えmRNAレベルおよびタンパクレベルで確認した。その結果、AD患者において発症に関与しているといわれている各種サイトカインの発現の上昇がみられた。2)CTPの効果の検証:培養ケラチノサイトと線維芽細胞にCTPとサイトカインを添加し、Sema3A、NGF、各種サイトカインの産生の変化をタンパクおよびmRNAレベルでみた。その結果、TSLP、TARC/CCL17、 MDS/CCL22などのサイトカインの産生が亢進した。Sema3AとNGFについては一定の傾向はみられたが有意な変化ではなく、再度実験を行っている。末梢血単核細胞を用いた上記ケラチノサイト培養上清による遊走試験では、CTP添加培養上清において遊走能の亢進がみられた。さらにAD患者に二重盲検法で濃縮CTP製剤と通常のCTP製剤を12週間経口投与し、前者で痒みや炎症所見に有意な変化をみた。3)血清SCCA2の臨床的意義について:ADの慢性化の指標やかゆみの難治化、薬剤の効果の予測に使用可能かを、患者データーを用いて検証中である。
今後は28年度の実験を引きつづき行う。とくにPO添加による影響を異なる培養細胞系で確認し、より多くのサイトカイン、ケモカイン産生のへの影響を検証する。CTPの効果の検証については、Sema3Aの産生亢進作用を培養系に添加するサイトカインを変更しながら様々な条件下で再検証する。さらに、あらたに以下の実験を準備し、行う。1.CTPの効果の発現機序を解明するため、CTPがレセプターに結合した後の細胞内シグナル伝達について培養ケラチノサイトを用いて検討する。さらにCTPを投与された患者の血液データーと効果発現の関係について解析する。2.Sema3Aの生体内動態を可視化することが可能なFlag-SEP-Sema3Aノックインマウスを用いてサイトカイン動態との関係を明らかにする。3.PO欠損の末梢神経に及ぼす影響をみる。具体的には PO knockout mouseを用いて、PO発現異常と神経の表皮内伸長や真皮内増殖およびSema3A、NGFの発現異常の関係を免疫組織学的染色とmRNAレベルでみる。連携研究者:五嶋良郎はセマフォリンの研究を、出原賢治はPOの研究を指導し、推進する。
ADモデルマウスや乾皮症モデルマウスを用いてPOの発現異常とSema3A、NGF、各種サイトカインの産生の変化について実験を行う予定であったが、in vitroの実験に時間がかかり、行えなかった。
29年度は実験計画を見直し、これらのマウスの実験を行うかわりに、POとCTPのin vitroの実験に使用する予定である。
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