研究課題/領域番号 |
16K10168
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
相原 道子 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (90231753)
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研究分担者 |
山口 由衣 横浜市立大学, 医学部, 講師 (60585264)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アトピー性皮膚炎 / Sema3A / periostin / コラーゲントリペプチド / かゆみ |
研究実績の概要 |
本研究ではアトピー性皮膚炎(AD)を中心としたそう痒性皮膚疾患におけるperiostin(PO)の発現異常と神経軸索ガイダンス分子および各種サイトカインの産生異常との関係についてヒトおよび動物で明らかにすることを目指している。さらに、コラーゲントリペプチド(CTP)を用いて、かゆみおよびADの新規治療薬の開発をめざす。また、ADにおいて、表皮ケラチノサイトが産生するSCCA2の上昇を報告したが、さらにADにおける臨床的意義を詳細に確認する。 28年度は、以下の研究を行った:1)培養細胞やAD患者末梢血細胞を用いてPOが神経軸索ガイダンス分子や種々のサイトカイン産生に及ぼす影響についてmRNAレベルおよびタンパクレベルで明らかにする。2)培養ケラチノサイトや線維芽細胞、末梢血細胞を用いてCTPによるケラチノサイトの神経軸索ガイダンス分子やサイトカイン産生促進効果を明らかにし、その機序を解明する。さらにAD患者に12週間投与し、その効果をみる。3)ADおよびその他のそう痒性皮膚疾患患者の各種臨床データーと血清SCCA2との関連をみることにより慢性化のバイオマーカーとしてSCCA2の有用性を明らかにする。 29年度は上記実験を引きつづき行うとともに、新たに以下の実験を行った:1)CTPの効果の発現機序を解明するため、培養ケラチノサイトを用いてCTPがレセプターに結合した後の細胞内シグナル伝達について検討する。さらにCTPを投与された患者の血液データーと効果発現の関係について解析する。2)Flag-SEP-Sema3Aノックインマウスを用いて皮膚の炎症との関係を明らかにする。3)PO 高発現細胞とPO発現抑制細胞を用いてPOのTGF-βシグナルに与える影響をみる。28年度から引き続き行った研究の一部は既に論文化され、29年度に開始した実験は、現在進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)POのADへの関与の検討.1.培養ヒト線維芽細胞およびケラチノサイトをリコンビナントPO単独またはPOとTEN-αで共刺激し、Sema3A、NGF、各種サイトカインの発現の変化をタンパクレベルやmRNAレベルで確認した。また、培養液中のこれらのタンパク量をELISA法で測定した。結果はいずれの細胞もPO添加でPO無添加のコントロール群と比較してIL-1α、IL-6などのサイトカインの発現亢進がみられた。2.末梢血に POとLPCとの共刺激を加え培養したところ、AD患者では健常人と比べてIL-1α、IL-6、IL-8のmRNAの発現の上昇がみられた。PO受容体であるインテグリンαの発現増加率はAD患者の末梢血で高かった。 2)CTPのADへの効果の検証と作用機序の解明:培養ケラチノサイトと線維芽細胞にCTPとTNF-α、IFN-γ、IL-3を添加し培養した結果、TSLP、TARC/CCL17、 MDS/CCL22の産生が亢進したがSema3AとNGFについては有意な変化はみられなかった。CTPがレセプターに結合した後の細胞内シグナル伝達についてはSTAT-1の関与を明らかにした。AD患者に二重盲検法で濃縮CTP製剤と通常のCTP製剤を12週間経口投与し、前者で痒みや炎症所見、好酸球数に有意な低下をみた(J Dermatol Sci 2017)。 3)血清SCCA2の臨床的意義について:皮膚免疫組織学的検討と合わせて行い、ADの慢性化の指標やかゆみの難治化、薬剤の効果の予測に使用可能であることを確認した(Allergol Internatioal 2018)。 4)Sema3Aの生体内動態を可視化することが可能なFlag-SEP-Sema3Aノックインマウスを用いて皮膚の炎症との関係をみているが、皮膚に生じさせた炎症の減弱効果については有意な結果が得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は29年度の実験のうち、論文作成が終了したCTPやSCCA関連を除いた部分について引きつづき行い、結果をまとめる。とくにPOのADにおける影響を見るために、PO 高発現細胞とPO発現抑制細胞を用いて、PO発現異常が及ぼす免疫系の異常について様々な角度からの研究を進める。これまでPO 高発現細胞ではTGF-βで誘導される抑制系Smad7の発現の低下が見られ、TGF-βシグナルのさらなる活性化に関与するデーターを得ているが、それらについて再度実験を行い再現性を確認する。また、細胞外マトリックスにおよぼす影響も確認する。Flag-SEP-Sema3Aノックインマウスを用いた実験では、炎症の惹起方法を変えるなど、有意な差がコントロールマウスとの比較で見られるよう工夫をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
約2万円の試薬購入時の端数がでたので、来年度の試薬購入に当てる予定である。
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