本研究は、腫瘍に対する免疫応答で活性化したリンパ球が腫瘍特異的に腫瘍部位に浸潤することを利用して、腫瘍特異的リンパ球をドラッグキャリアとする新しいcell-mediated drug delivery systemによる皮膚悪性腫瘍治療の開発を行うことを目的として実験を行った。 まず、リンパ球に取り込ません抗がん剤含有ナノ粒子を作成した。抗がん剤にはドセタキセルを、ナノ粒子にはPLGAを選択した。薬剤およびPLGAを有機溶媒に誘拐させ、界面活性剤水溶液中でエマルジョン化した。続いて、抗がん剤と同様の化学的特性をもつ蛍光物質(クマリン)を含有したナノ粒子を代替とし、PLGAナノ粒子とリンパ球との共培養によりその取り込みを蛍光顕微鏡ならびに共焦点レーザー顕微鏡にて検討したところ、リンパ球内にクマリンの取り込みが確認できた。 次に、ドセタキセル含有PLGA粒子をリンパ球と共培養させ、ドセタキセルのリンパ球への取り込みを検討したところ、ナノ粒子の取り込み量が少なく、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による定量評価は困難であった。現状ではHPLCより高感度な薬剤検出方法がなくリンパ球に取り込まれたドセタキセル含有量の評価は今後の課題である。 上記で作成したドセタキセル含有リンパ球を用いて血管肉腫に対する治療効果を検討するために、ドセタキセル含有リンパ球と血管肉腫細胞株との共培養を行い、細胞増殖試験、フローサイトメトリーを行ったが、優位な細胞増殖抑制効果、アポトーシス誘導効果は認められなかった。この結果はリンパ球に取り込まれたドセタキセルの量が少なかったためかリンパ球からの放出が出来なかったためであると考えられた。 結論として、リンパ球をドラッグキャリアとするdrug delivery systemを確立するためにはリンパ球への薬剤の取り込み効率をさらに上げていく必要があると考えた。
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